後篇

 わたしは、になってしまった。


 私は、あれから色々なことを知ってしまいました。知りたかったことは勿論、知りたくなかったことも、どうでもよかったことも。でも、知ることは素晴らしいことで、理解するということは、あの頃憧れていたに一歩でも近づけたから、とても嬉しかったのです。

 でも、知りたくなかったことも知ってしまいました。私は、あの頃思い描いていたのとは全く違うになってしまったかもしれません。いや、でももしかしたら、元からこんなだったのかもしれないとも思いました。知るということは素晴らしかったけど、知った後私は、その知識をどのように使えばいいのか解らず、持て余しているばかりでした。多分これが、解らないことを解った瞬間だったのだと思います。

 その頃から私は、私の中のどうしようもない感情、心をに捧げて、あの日それを失って、さえも失って、それでもまだ自分に生きる価値を見出したくて、必死に神様かのじょを自分でつくり上げました。まだ何も知らなかったあの頃のような、素晴らしく無知な、純粋無垢なあの少女は今の私自身であると思い込んで、私ともっとも仲の良い、けれども総てを捧げられると、永遠に夢の世界の中で一緒にいられたら、一緒にその世界を駆け回れたら、もうそれだけでいいと思いました。知識などどうでもいいとさえ思いました。そのとき、私はもう既に、生きている意味を使い果たしていたのかも知れません。

 私は私の夢の中で、たった一人の友達、いや、もう今はでしたね。彼女とともに、現実の夢の世界に出かけました。来る日も来る日も、今日はこれにしよう、昨日はこれに乗ったしこれはやめよう、と彼女と二人きりの世界を愉しみました。

 でも、いくら頑張ってもそれは二人きりの世界にはなりませんでした。解っていました。識っていました。私の知識は悉くそれを理解していました。自分でも吐き気がするほど、自分のことを解りきっていたのです。そのことを識りながら、解っていながら、私の中の奥深く、核心にある、パンドラの匣の中にそれを闔じ込めて、もし開けるようなことがあれば、絶望が溢れ出すようにしていたのです。一応、私の中に希望がほんの僅か残るようにして。でも、本当は全部識っていました。

 父親が自殺未遂で瀕死の状態で病院に搬送されたこと。或る遊園地のジェットコースターの一部が整備不良で乗客が振り落されたこと。その遊園地の従業員が恕りなのか、恐怖なのか、私に合わせて二人として接待したこと。母親があの日に闔じ込められた私を父の葬儀へ向かったこと。ジェットコースターの降り場のブルーシートの中で光輝くストラップを持ったが見えたこと。

 残念なまでに、私は総てを理解していました。確りと理解していました。でも、信じようとはしませんでした。そうしたら、普通に、いつものが帰ってきたのです。私は、彼女を信じました。何より、彼女といることが楽しかったし、彼女自体が私のすべてだったからです。だから、母に見棄てられようが、客足の途方もなく少ない遊園地の従業員に迷惑をかけていようが、感じる儘、思う儘に振る舞いました。のいるあのせかいの中で。

 でもある日突然、私の中が欠落していることに気付きます。それはやはりこの世界には彼女はいないということを悟ってしまったからでしょう。何年も前にもう解りきっていたというのに。彼女のいない世界は、世間一般の方が願をかけている傍観主義者の神様を失うよりも残酷で、彼女の中からが、違うところから私を呼んでいるようにさえ思えました。前にも書いた通り、その時点で私は生きる意味を完全に見失ってしまいました。完全に心の拠り所を亡くしたのです。

 でもその後、何度も彼女と遊園地に通いました。記憶の中で、一時は封鎖されていたあの遊園地に何度も足を運びました。でも、一度として彼女とともに帰ったことはありませんでした。それでも彼女は、一度私をおいて、実体をどこかへやって、私の元へ帰ってきた。私に会いにやってきた。と思っていました。でもそれは、私が作り上げた記憶の中の彼女でした。彼女は何度私と遊園地に行っても、同じことしか話しませんでした。同じ乗り物にしか乗りませんでした。同じところでいなくなりました。それでも、彼女はいると信じ続けていました。だって、彼女は帰ってきたのです。何度だっていなくなって、何度だって帰ってきたのです。今日までは。

 私は私に憑かれていました。疲れてもいました。もうよかったのです。総てを悟ってしまったことに、もう呆れてしまいました。頭に108の巻き髪のある高尚な人のように、善き方向に思向が行くことは終ぞありませんでした。知識があったからこそ、心があったからこそ、こうなってしまったと、一人合点するほかありません。心の奥底で、地球が破滅するほどのの失落があったことは明瞭で、どうすることもできないことも明確で、疲れてしまったのだと思います。

 もうなので、何度も言ってきましたが、彼女かみさまが、私の総てでした。それならば最後まで彼女の総てでありたいと望むほかありません。でも、誰かを恕ることを、家族を想ったりすることを忘れたわけではありません。きっと、私はこの世界で生きて、火のついた蝶の様にひと時だけ、輝くことができたと思っています。とても、この世は、残酷で、無慚で、素晴らしくて、畏敬すべきです。だからこそ、こんな穢れてしまった私など、以外が欲してくれるはずありません。でもの畏敬のあまり、に到達する手段は彼女と同じではいけないと思いました。これが私に残された、最期の希望おもいやりでした。


 だから私は、、頸を吊って死んだのだと思います。

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遊園地 QUKRI @kabe_ebak

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