第22話 「ゴキゲンなランウェイで何より!」

■ところ 国道85号線

■じかん 004日目 11:56 〜 12:04

■たいとる 「ゴキゲンなランウェイで何より!」


 ロープと板の拘束が外され、速度を保ったまま国道85八十五号線に無事着地しつつ、りらせは再び道路を走り始めた。着地した時のサスペンションのたわみは、ヤンキー座りしたまま階段を降りる感覚に似ていた。

 しかしりらせが気になるのは父親が別れ際に言った「60六十パーセント」だった。

「ねぇウチの家族、人家族なんだけど、60パーセントが改造人間なんだって」と、りらせはミレイに言う。

「はぁ、それよりちゃんと集中シて走った方がヨイのでは」

「いや気になるよ」

「計算ミスか言いミスではないデすかね?」

「違うとおもう」

「『リラセチャンには黙ってたけど、ホントは100人家族で、ママウエ殿が記念すべき60六十人目の改造人間』なのでは」

「いや、4人家族ですから。それでいったらホントは10000一万人家族で6000六千人目かもしれないでしょ」

「デモ大体、4人じゃない可能性がある時点でホンシツテキには人家族でも100人家族でも一緒デスけど」

 まぁ確かに、ミレイの言う事も一理ある。自分が認識してない家族がいるならそれは人でも96九十六人でも(5n−4)人でも一緒だ。観測されない家族。ダーク暗黒家族ファミリー。かっこいいな。やみの一族か芹那せりな家は。

「ペットの亀も入れたら、まぁ、5人家族ではあるけど」

 思い当たる節は、亀くらいか。ペットの亀五郎かめごろうも家族としてカウントしたら、まぁ分かる。けど待って待って、そうだとしてもじゃああと誰か一人、改造されてるって事じゃないの。亀五郎、ハヤセ、パパ。改造されてんの誰。気になって夜も寝られないわ。あ、訂正。安眠できます。

 後方視界バックモニタに見覚えのある姿が映り、それがぐんぐんと近づいてくる。確かに見覚えはあるが、どう考えても知っているよりも十倍以上でかいし、微妙に形も違う。普通の人間サイズの亀が空中を飛んでりらせに近づき、真横にぴったりつける。

「亀五郎!」とりらせ。

「寝てたら叩き起こされてこのザマさ。イカしたモーニングコールに参っちまうぜ」

 と亀が言う。言うというか、首輪のようにぶら下げた機械からスピーカーで喋ってきた。確か、『タトリンガル』という亀語通訳機器だ。確かに亀五郎の面影おもかげはあったが、見れば見るほど別亀のようだった。サイズが変わってしまっているのは置いておいても、甲羅こうらなどは明らかに以前とは違い、流体力学にかなった形状になって先がとがっている。自然淘汰とうたという砥石といしが数億年掛けていできた物とは全く流れをことにする、ヒトのニューロンの結線けっせんが思考の楼閣ろうかくの上にみあげた模様デザイン。金属のようだけどその表面はしっとりと美しい。直線と曲線が和合わごうした波打ち際のような継ぎ目。こけの生えた少し緑色をした甲羅の亀五郎の姿ではない。見覚えはあるけど、新品な亀五郎。二つのぜんの先からジェット噴射が下向きに吹き出し、小刻みにノズルをしぼったりゆるめたりして姿勢を調節し、こうは後方を向き、前への推進力を得ている。

「リラセチャンのペット、斬新ザン☆シンですネェ」

「いや、前まではただのえないオス亀だったんだけど」

「おおっと、これは二人とも手厳てきびしいねェ! お二人フタリさんこそ、なかなかどうして素敵なピンク色じゃあないの。国道借り切ってファッションショーでもしてるのかい。ゴキゲンなランウェイで何より! しかも航続こうぞく距離が赤道千周分とあっちゃ、今時の男子は女の子のお尻追っかけるのも一苦労だ」

「どこか行くの?」

「物騒なパーティーが開かれるってんでね、呼ばれちゃないけど参加するのさ。ちょっとヤンチャな甲羅だからな、ドレスコードが心配だぜ。そんじゃ、今度デートでもしようぜ。素敵な洗車場紹介するよ、ほいじゃな、オフタリサン!」

 そう言って亀五郎はスピードを上げ器用なジェット噴射さばきでりらせたちを追い抜き、曇り空の彼方へ去っていった。

 りらせの左腕を、ミレイがつんつんとつつく。

「ん」と、ミレイの方を向く。

ミレイは、表情がぎりぎり見えない程度に顔を合わせないまま、

ワタシ、あの亀さん、好きかもしれませんねぇ」などと言う。

「こんどウチにきたら、一緒にエサあげようね」と私は返した。

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