第21話 「トラックとしての恥じらいも覚えてきちゃったんですねぇ」
■ところ ジーファー甲板 〜 ヘリにぶら下がって(国道85号線)
■じかん 004日目 10:53 〜 11:56
■たいとる 「トラックとしての恥じらいも覚えてきちゃったんですねぇ」
甲板にヘリが止まっている。私が最初に乗り込んだのと同じ型らしいけど、
給油済みのヘリのおしりから、
壁から出ているロボットアームのような車止めが私の車体を固定する。
バラバラとローターが回り始め、やがて上向きの加速度を体に感じ、空へ浮かぶ。
私たちはこれから国道
「それにしても、ママはどうやってヘル子倒す気なんだろ」大体、ヘル子は衛星軌道上にいるのだ。ハヤセ同様、ほとんど手出しする手段がない。
「拳で殴るんじゃナイでしょか」
「あんたねぇ、人の母親をなんだと思ってんのよ」
「ナンダも何も、さっきのアレ絶対音速超えてたと思うんデスがねぇ」などとミレイはぶつぶつ言い、パパはパパでさっきからそわそわしている。
水平線の先に陸地が現れ、曇り空によってパッとしない緑色の山々がその
遠くの空に黒い半透明のもやもやしたものが見えた。無数の点が架空のポインタに追従するようになめらかに動いている。飛ぶ点描だ。たぶん、鳥の群れだろう。
私のいる部屋の天井に
私の車体の下にくぐらせた板がそのロープにつながれていて、私の降下する準備は整えられている。
「車体の下に何か通されるのってなんだかちょっと恥ずかしいね」と私は言う。
「うへぇ、リラセチャン、トラックとしての恥じらいも覚えてきちゃったんですねぇ。ヨイですねぇ。ヨイ」とミレイが言う。
パパが両手をさすりながら、私をじっと見て、口を開く。
「リラセ、多分、気付いていると思うけど、ミホロも、昨日改造手術したんだよ」
りらせは一度、はぁ、とため息をつく。
できる限り、できるかぎーり、意識の
改めて、はぁ、とため息をついて、頭をガコンと下げると、ステアリングのホーンボタンにぶつかり、カーゴベイ内にふぉぉおぉおおおん、とクラクションが
「ナンの改造しちゃっタんデスか?」とミレイが私の代わりにパパに尋ねる。
「『アルゲニョンの槍』と同化した。
さっきのは外部アバターと呼ばれる
「うわぁ、やばやば」
「ミホロがとにかくしつこく改造しろと掛け合ったみたいだ。
外部アバターはアルゲニョンの指揮者が操縦するリーダー機みたいなもので、アルゲニョンの槍のシステムの一部なんだ。だからさっき会ったミホロは、本当の体じゃなくて、五感を持ったミホロ人形? みたいなものだ。
アルゲニョンの槍は戦略指揮を行う拡張知能の開発が結局追いつかなかったわけだけど、しつこいミホロに昨日、戦闘指揮シミュレートテストしたら、拡張知能でも足りなかった基準値をクリアしたらしい。そしてそのまま被検体としてアルゲニョンの槍と繋がってしまった」
「何それママ兵器になっちゃったの?」
「まぁ、うん。だから今は軍管轄の地下メインフレーム内にミホロの本当の体がある」
「なんで止めなかったの!?」
「血の繋がった娘が、トラックになるのを、認めてしまった人間が、」まで言って、その先で選ぶべき言葉が見つからないのか、黙ってしまう。
はぁ、と私は思う。パパ、そういうトコやで! そういうトコや! 困るわ本当。
「まぁいいけどさ」と私は言う。ま、大体自分がトラックになったあたりからハヤセ以外は基本的にどうでもいいのだ。どうでもよい。
「そろそろでいす」とミレイが言う。
国道上空を道なりにヘリが進む。見える限りの道路上では、先を急いでいたであろう自動車たちが血管にこびりつくコレステロールのように
警察の緊急車両とバイクが国道を先導して走っている。当然だが、それらには非常時狭域基盤管制システムによるオンライン
「はぁ」とパパはため息をつく。「僕だってさ、家族の
「いてきまーす」とミレイは言い、
「パパ、行ってきます」とりらせは言ったが、頭は算数の計算をしていた。
いや待て、待て、ウチは
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