第17話 「所有権は既に私にあるのでいす」

■ところ ジーファー内処置室 

■じかん 001日目 23:00 〜 23:02

■たいとる 「所有権は既に私にあるのでいす」


 澄まし顔でミレイが言う。

「逆にリラセチャンに聞きたいのですが、リラセチャンは一日中トラックとして地上を走らないといけないワケなんですが、寝てる間、どうするつもりだっタんですか」

「逆にの意味がわかんないんだけど、いや、つうか、自動運転とか、あるでしょ」

「あ」

 忘れていた、という顔をした。絶対した。ポーカーフェイスなミレイだが、今のは絶対に忘れてたという顔だ。

「リラセチャンが寝ている間は、ワタシが、リラセチャンから運転制御を委譲いじょうしてもらい、運転するワケなんですねー! ヤッタネ!」

「ちょっとまって、ヤッタネ、じゃねえよね」

「はぁ、ヤッタネですが」

「いや、なんでミレイまでトラックとくっついてんの」

「だから、リラセチャンが寝てる間は私が運転するので」

「自動運転とかの技術があるのでは」

「リラセチャンが寝てる間は私が運転するので」

「マジで、その理由なんすか」

「はぁ。マジですが」

「まじか……」

「ワタシとずっと一緒、イヤ?」

「できれば、私が起きてる時は寝ておいて欲しい」邪魔すぎる。

「えー」

 というか、とりらせは思う。私が半トラになるのは、まだわかる。愛すべき弟のためだ。仕方ない。けどミレイは半トラになる理由あるだろうか。いやない。ないだろ。普通は寝てる間運転するとかいう理由で半トラしない。

「一緒にトラックになる必要ないじゃん」

「病める時も、健やかなる時も、ともに歩むと誓いましたガ?」

 りらせは無い方の手で頭を抱える。

 言ったわ。誓ったわ。めっちゃ誓ったわ。

「誓ったけど、それはそういうあれと思った訳でなくてね」

「はぁ。リラセチャン、私、嫌い?」

 不意にミレイの声のトーンが下がり、表情は変わらないが、目から涙があふれ、大粒の涙がつ、とこぼれる。

「あ、いや、別にそんな、そこまで嫌いってわけでもなくて、えと」

 りらせは女の子をこんな形で泣かせたのは初めてだった。あまりに不本意なのでりらせも狼狽ろうばいしてしまう。泣かせるつもりはなかった。

「……」すん、と無言でミレイははなをすすり、目をせ、りらせから顔を背ける。

 ミレイは手術衣のポケットから、ハンカチを取り出して、涙を拭う。

 いやハンカチではなかった。

「ちょ、私のパンツで何涙拭いてんのよ!!!」

 クッソなんだこいつ、ツッコミが追いつかねぇ。

「手術したらくれるって言いましたので、おぱんつの所有権は既に私にあるのでいす」などと言う。

 あああああああ!!! コイツはああああ!!!!

 『路上ッコ暮らしが好きな奴に悪い娘はいない』というのはりらせの17十七年間で得られた人生訓だった。しかし、この経験則の破れが今回初めて観測されるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る