【転】芹那りらせがトラック改造してから、トラックとしての恥じらいを覚えるまで。

第16話 「半トラになっちゃった」

■ところ ジーファー内処置室

■じかん 001日目 22:58 〜 23:00

■たいとる 「半トラになっちゃった」


 りらせ。父がくれたもの。私の名。やがてそこなわれ、過去かこになる。

 リ・ラ・セ。舌先が口蓋を二度叩き、三度目にそっと歯の裏に触れる。

 リ。ラ。セ。

 最近読んだ小説、こんな感じの出だしだったな。パパの本棚から、興味本位で取り出した本で、年の離れたおじさんと女の子が車で大陸中を回っていた。

 寝起きのようにぼんやりしていた。いや、寝起きなのか。

「さめマシたか? 目?」

 そうか、今日は一日に三回も目を覚ましたんだな。

 りらせは、トラックの運転席にいた。ただし、運転席に座っていたのではない。かさ上げされた運転席から、胸像きょうぞうのように上半身が生えていた。視界にはトラックの内装が広がる。運転席に座っていれば当然のながめが、当然のようにりらせの前に展開している。目の前には大きなハンドルやメーター類がある。

「わたし、トラックになっちゃった」

「この程度でトラックになったとか言ってたら、全身、心までトラックになった人に笑われマスよ」と、ミレイからマジなのか冗談なのかわからないツッコミが入る。体も心もトラックになったら、完全にトラックでは? 「それも実証済みデス」とか言われたらさすがにこわい。

「じゃあ、はんトラになっちゃった、ならいいの」

「おk。おk。リラセチャン、半トラ。良き単語思いつきマしたね。半トラ」

 そっか、とりらせは思う。

 少しずつ、現状に対する実感が、全身をおおってゆく。

 もう、私、ふつうの生活、できなくなっちゃうんだ。

 私はただずっと走り続けるだけのトラックに。

 ちゃんとまだ、男の子を好きになったこともないし、キスだって、デートだって。

 したいこと、たくさんあったなあ。

 たくさん、たくさんあった。

 歌だけはうたい放題だけど、

 もうダンスのレッスンもできない。

 スキーも、海水浴も、コンサートもこんな体じゃ行けないね。

 ハヤセ、もし助かったら、私にちゃんと、乗ってね。

「ねぇ、ミレイ。ミレイは、

 ……は? 

 はあああああああああああああああああ!!!!!!????????

 おま、おま、はああああああああああああああああ!!!!!!????????

 おまーーーー!!! おま、ほあああああ!!! おまー? おま?? おまー!

 バカなのバカなのバカなの??!!!!!!!?????????」

 どうせならついでに、目玉が飛び出る機能もつけて欲しかった。

 きっと今、音速おんそくで飛び出していただろう。

今日イチ本日一番のバカやぞ!!! 今日イチ本日一番のバカやぞ!!」

 りらせは有る方の人差し指でミレイを秒速10回で指して、

 本日一番のテンションと言葉づかいで、

 ミレイに最大限のツッコミを入れていた。

「ミレイ、あんたなんで自分もトラックについてんの!?」

 嵩上げされた助手席から、ミレイの上半身が生えていた。

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