第11話 「『履帯』ってめっちゃ女子力高そう」
■ところ 夢からの目覚め 〜 ヘリの中
■じかん 001日目 12:34 〜 12:55
■たいとる 「『履帯』ってめっちゃ女子力高そう」
左手が温もりに包まれていて、ただそれだけで
かつて私は、私自身を知らなかった頃から、これに包まれていた。
パパ。
りらせは意識を取り戻す。
父親の両手に包まれた左手にりらせは力を入れる。
「よく頑張ったな、リラセ」
今度は安らぎが、りらせの意識のカーテンを閉じてゆく。
次に目を覚ました時、そこは
りらせと同年代に見える少女が壁から張り出したスチール製の椅子に座っていて、右手に
白いワンピースに麦わら帽子という
綺麗な黒髪は長く腰まで伸び、
りらせが彼女を見ていると、徐々にその少女は眉を
「おー。起きましたねー」
あ、これさっきのロケットパンチ飛ばしてきたやつだ。と、ローギアの思考回路でもりらせには
「リラセチャンも、『路上ッコ暮らし』、すきなんデスねー」とその少女は言って、口にロリポップを咥え、おもむろに両手でワンピースの裾を持ち上げると、パンツを見せてきた。
十秒ほど、りらせはパンツを見せられ続けた。
りらせが反応しないので少女はワンピースのスカートを下ろさないし、パンツ見せられどう反応すればいいかわからずりらせは一時停止して、お互いフリーズ。
ようやくりらせが「あんた勝手に私の下着見たの」というと、彼女は「腕
右腕を見ると包帯が巻かれていて、おもむろに
「ロケットパンチしたよね」とりらせは言った。
「腕縫合するんデ、代わりにロケットパンチして、パンツ見せて貰いました」などと少女は言い直す。こいつヤバいな。他にもついでに私名義で勝手にピザ注文しているかもしれない。
左手を眼前に
「そっちのは外せまセンよ」
「え?」とりらせは聞き返す。
「左手のセンサは取り出し不可なんですねー。
りらせは黙って次の
「こんどワタシとおぱんつ交換しまセンか?」
「いや、なんでセンサが取れないか教えてよ」
「
「存じ上げませんが……」リングが個人認証端末なのは分かってるけど、仕組みまでは知らない。
「うへぇ。ドシガタイ! しらねー技術よくも信用できまスね。まぁいいですけど」
「これが関係あるの?」と言ってりらせは左手中指のリングを見つめる。
「いまリラセチャンの左手に入ってるノは、リングの更に次世代のやつなんでスね。センサーはむしろおまけ」
「はぁ」そういやこの少女がりらせを呼ぶ時の発音は、父親のそれに似ている。
「その左手の
「怖いからもう少し普通にお話してくれませんか」とりらせは言う。この少女、危ない薬物キメているのでは。
「?」と、疑問形の表情で少女は口に咥えた飴をガリガリと砕いて、それをゴミ箱にペッと吐いて「つまりー、リラセチャンは、この機械を外すことができないのデす。正確には、外してもイイけど外すと
「じゃあどうすりゃいいのよ」
「ホワイ? 私に訊くナゼ?」
「いや、だって、えと」
流れで
「おおまかにプランはふたつありまス」
あるのか。じゃあ言ってよ。
「あなたと会話するのって絶対何かの資格いるよね。『日常会話士一級』みたいな」
「はぁ? いりませんが?
さて、プラン
リラセチャンの左手も
「しんてんおー、って何」
「女子コーセーはモノを知らんので困りマす」などと言って目をつぶり、両の
「乗れないじゃん」
「はぁ、専用の合流機を使って信天翁に乗れます。飛行機カラ飛行機に乗り換えるんですねー。イミフメイですネ。金持ちの考えることワカリません」
「で、私の左手をその飛行機に乗せてずっと移動させようと?」
「はぁ、そなんです。けどさっきも言いましたが、ナノマシンでログとられるので、リラセチャンの体から左手外したら多分ばれチゃう。ハヤセチャン、ボン、デすねぇ」
「手首だけを移動させ続けるのじゃダメと?」
「そでいす(そうです)」
「じゃあプランBはなんなの」
「ほう。残りの案は、リラセチャンも、ハヤセチャンみたいにまるごと人工衛星に載せちゃう案と、リラセチャンに
「自走機構」
「体改造して下半身に
「よくない……」よくねえよ、この女正気かよ。
「核か日光かくらいは選ばせてアゲマスけど?」
「は?」
「動力源、核融合炉にしたら小型化でキますけど、ソーラーだとでっかくなって、ちょっとダサいですねー。ダサダサ。でもまぁソーラーなら丁度今SUV用のヤツ積んであるんですぐにでも改造できまっす」
「核で」でかいのはごめんだ。
「車輪にする? それとも無限軌道?」フィッシュオアビーフみたいに言う。
「車輪でいい。下半身に無限軌道つけたくない。女子だから」
「『履帯』ってめっちゃ女子力高そうナのに」
「イヤ」
「取れた右手の先っちょ無くしたみたいだし、ついでにそこにドリル付けたいんデスが」
「ふざけんああおっ!」舌を
改造されるのはさすがに嫌で、でもじゃあハヤセを助けるにはどうすればいいのか私にはわからない。さしあたって提示された案も、自分が人工衛星に載せられるか、改造されるかで、どちらもパッとしない。消去法で考えて、私が人工衛星で周回し続けるしかない。それはそれで
「というわけで、一旦エンヌリハルの
「小平洋上にあるやつ?」
「そでいす(そうです)。メガフロートとは言ってるケド、あれは海の上をポンポコと移動してますんで、リラセチャン
「エンヌリハルの雫には宇宙に行くロケットありますので、それ使えばリラセチャンも宇宙いけますねえ」
「はぁ、なんでもあるんですねぇ」少女の喋り方が微妙にりらせにも移る。
「
「え? もう決まってんの?」
「だめですカ?」神妙な顔をして甘えた声を出す。
金属の
「起きたか。リラセ」
「パパ!」
「おじサム!」親子の感動の再会を無視して、少女は私のパパに飛びつく。待てどういう関係だ一体。
「離れなさい」とパパは言うが、語気は弱く、諦めているような言い方。少女はさも当然といった感じで、ムササビが次の木の
「生きてて、よかった」と、父親は言う。感情をわかりやすく表に出すタイプではなく、他人が見たら誰かに言わされているような印象を受けるかもしれないが、そこに愛情があることがりらせにはわかる。しかし、娘と同じ背丈の少女の止まり木みたいな状態では価値半減だ。
「うへぇ、娘の前ではクール気取っちゃうパパですねぇ、おひげそろそろ剃りまショか」などと言いながら、少女はりらせの父親の頬を手のひらでぺちぺちと叩く。ぺちぺち。
何か言おうとしていたりらせだが、やっぱり何も言わずに父親をとりあえず疑惑の目で見る。さあ我が父よ、何か言い訳をせよ。さらば聞きやらん。
「どっから話そうか」と思案顔で父親は言う。背中の少女を完全に無視。父親はりらせのベッド脇へ来て続ける。
「まず、僕は先週から
そう言いながら、父親はりらせの右腕の産毛に触れるか触れないかで優しく撫でる。強く触れると痛がるかもしれないと思っているのだろう。
これは確かにカナリアの言っていた事と整合する。
「出向いた先で、僕は
「え?」とりらせは言う。
「で、この
「ワタシがカナリアチャンと一緒におじサムを救ったのですねぇ。エライ!」まじか、エライよ。
「で逃げ出したはいいけれど、事すでに進行中で、僕にできる事は非常に少なかった。
父親の僕という一人称や、ときどき娘を二人称で『
「恐らく関連機関にのみ犯人直々の声明が出されたようなのだけど、
「は?」
よく思い出す。
その名を聞くのは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます