第5話 「私、左利きなの」
■ところ 三つ目の信号 〜 四つ目の信号
■じかん 001日目 08:22 〜 08:28
■たいとる 「私、左利きなの」
「近所の悪ガキ」という
りらせの父親は「ゴンタ坊主」などと言っていたが、それだ。いや、そんな柔らかいゴンタなんて響きで済ませるようなもんじゃない。もっとシリアスに
その四つのフォーエバーは日を
フォーエバーどもは子宮から出てきた時系列順に、
と名付けられた。
赤ん坊というのはこの地獄のような世界に生まれた事を
なぜりらせがそれほどまでに汚い言葉で
この四
さて、先ほどの女の子の「かえしてー」に戻る。まだ見えていないが、市営馬見豊三角の駐車場でクソ永遠の輝き共が女の子にちょっかいをかけているに決まっているのだ。そしてその前を通るとりらせに絡んでくるだろう。絶対に絡んでくる。他人の嫌がることを確実に捉える器官がフォーエバー永遠の輝き共には備わっていて、数キロ先の血の
「かえしてー」を聞いた瞬間に
全力で通り過ぎることと、祈ること。
祈りは届かない。
普段の
「おーっと! これはこれはりらせちゃんじゃーん!」という声がする。声だけでは判別つかないが、いずれかの暴君様だろう。七つも年上の相手にちゃん付けとはどういう
りらせを
願いは届かない。
祈りも誓いも届かない。
私たちの祈りを届ける機関はどこだ。
「ねー、ねー、ねー、りーらせちゃーん、今日のパンツ何色ー!?」
小四が言うセリフではない。多分これも真希輝だろう。大体こいつら、いつもはパンツの色なんて実力行使で確認してくる。ひとが急いでいる様子を見て、今回はあえて追いかけながら絡んでくる方針にしているようだ。もちろん急に鞄を
りらせは四暴君と
「おいおいおい無視かよりらせ
「しゅばばばば!」と烈児が効果音を口に出しながらりらせの
先頭の烈児が不意にりらせの先の進路上で手を広げ、足を大の字に通せんぼする。
りらせは一瞬
「ねー、りらせちゃーん! おっぱい成長したか俺が確かめてあげるからさ、触らせてよー! Cカップくらいにはなったー!?」と真希輝が何一つオブラートに包まずに言う。成人男性が思いつつ面と向かっては言えないだろう事も、小四なら言えるし許されるのだ。小四になる権利を政府が売り出したら
ずっと無視しようとしていたりらせだったが、我慢できずに「急いでるの!」と
あぁ、応えてしまった、と後悔する。きっと火に油だ。
「へー、急いでんだー!」と真希輝。へーなんだ、面白そうじゃん興味あるわというふうに目が輝く。残り二人はいつの間にか視界からいなくなっていたが、すぐに真後ろから陽気な声で「わー、ほんとりらせちゃん路上ッコ暮らし大好きなんだねー! かーわいー!」と。大輔だ。器用にりらせのスカートを
そして真希輝も視界から消えた。
何もしてこないはずがない。
真希輝は四人の中では最もりらせに執着している。丁度スポーツジムのガラス張りウィンドウの横に差し掛かったので、そちらを見たらまさしく今、りらせの胸を後ろから
再び判断の時。
りらせは前転をする。多少の怪我は覚悟の上で。
りらせのおっぱいを掴み損ねた真希輝の手は
「ひっどーい!」とパンツ大好き大輔が後ろの方でぷりぷり怒っている。政治家はこのクソ
「
背後にずっと気配はあるが、特に反応はない。数秒の沈黙。さすがにこっちも本気で怒ったのが効いたか? 反省しろ。
「あー、やっぱりりらせちゃんのパンツさいこーだね! ここでくらしたいよ!」と大輔。
あ、ノーダメージですか。
一気に押し寄せる無力感。
一瞬だけ背後を振り返る。
そこでは
「りらせちゃんのおしり、ほんといいかたちしてるねー。さわっていいよね、さわるねー」と言って顔面をりらせの尻に押し付ける。りらせの
「やめろ変態!」とりらせは叫ぶ。「キモすぎるんだよクソガキ!!」いつか婦警になって真っ先に逮捕してやるこいつら。
「わー、りらせちゃんおこってるー、こわーい!」と大輔。
「ほほほ、我々にはご
「お館さまああああああ!!!!お館さまああああああああああ!!!」いや、今度は誰だよお前。
と思ったが、違うわこれクソフォーエバー四兄弟じゃなくてこちらの血の
「もしもし」とりらせは電話に応答する。
私の
「まだ
「私、左利きなの」とりらせ。
「あ、大丈夫そうだな」と軽く返される。
「大丈夫、じゃ、ない」
「まぁそうだわな」と男は言う。
「男に、おしり、触られてるの」
「走りながら!?」男が驚いた声で聞き返す。
「走りながら、小学生に、お尻触られてるの」
どういう状況なのか何かしら想像したのだろう、一呼吸置いて耳の中で男が爆笑しはじめた。
「……んんっ(
「しらない」
「朝のニュースでしてなかったか?」
「みてない」
「麒麟6号機が
「はぁ」
「りらせちゃんのおしり! いい匂いするね!」
「なんだ今の」
「変態小学生よ」
「そいつか」
「で、ロケットがなに? 関係あるの?」男は何の話をしてるんだ。
「真偽は不明なんだが、ほしふりは軍事衛星らしくてな」
「私たちの国は
「まぁ専守防衛と言いながら現在も十分に軍事力は持ってるしな、君の国は。その人工衛星がもつ大気圏突入実証実験機というのは、運動エネルギー弾を高速で目標に落下させるというもので、事実上の兵器だ」
「はぁ」
「りらせちゃんのおしり! もみもみ!」大輔がそう言って尻を
「ほしふりはもう一種類の実証実験機も搭載していて、
「はぁ、なにかしらないけど、すごいのね、で、言いたいことは何?」
「いや、それがな、ハヤセはほしふりにいるんだ」
「?」 は? とりらせは思うが、声も出ない。
「実験機のうちの一つとすり替えられてほしふり内の実験機
話が唐突すぎてついていけない。爆弾が埋め込まれたと思ったら次は現在宇宙? まったくもっていみがわかりませーん!
「まったくもって、いみが、わかりませーん!」とりらせは思ったことをそのまま口にする。「わたしがはしったら、おとーと、たすけてくれるんじゃ、なかったんですかー! しばくぞ!」しばくぞ! は言うつもりなかったがリミッターが効かなかった。
「いや、お前に走れとは命令したし、お前が走らなかったらどうなるかの話もしたが、お前が走ってりゃ助けるとはひとことも言ってない。お前の弟を助けたり助けなかったりするのは俺の役目じゃない」
言い方が妙に引っかかる。もしかしてりらせはさっきから今までずっと勘違いしていたのではないだろうか。
その時、四つ目の信号に差し掛かった。幸い進行方向に向かって青になったばかり。ありがとう
歩道の
横に
りらせはそのまま直線の、ガードレールに突っ込む進路に加速した。りらせの
「あーん、りらせちゃんのおしりー!」という声が聞こえる。
りらせはガードレールまでの距離を目測する。
左足、右足、左足、思い切って、踏み切る。ジャンプ。右手でガードレールを掴み、両足を綺麗に揃えて、飛び越える。直後、
それにしても、とりらせは思う。こんな奴らも大人になるとカメレオンのように周囲に溶け込み虫も殺さぬ顔して生きて行くのだろうと考えると
「なんかすげえ音したな」と耳の中で男の声。
「クリスマスに、フレアは、いらないよって音」とりらせは息を切らせながら
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