第4話 「ゴーストのいねえゴースト版ゴーストタウンかよ。マジヤベエ帰る」

■ところ 二つ目の信号 〜 三つ目の信号 

■じかん 001日目 08:20 〜 08:22

■たいとる 「ゴーストのいねえゴースト版ゴーストタウンかよ。マジヤベエ帰る」


 禍福かふくあざなえる縄のごとし、嘘つけ! バーカ! バーカ! 

 あとでどんだけの幸福きたらチャラにできるんだこの状況。

 私が一体何をしたっていうんだ!

 りらせはそして青信号を無事渡り終えた。

 嫌な予感がするんだ。

 嫌な予感というのは当たるんだ。

 当たるからもっと嫌なんだ。

 馬見豊ばみゆた三角みすみ商店街のアーケードが見える。このアーケード入口前の横断歩道にある信号(三つ目の信号機)を渡らないといけないのだが、ここは全国的にも有名な事故多発ゾーンとなっていた。統計的に見ても不自然なほどに事故が多く、この数年でも何人か交通事故死者が出ているし、りらせの通う高校でも昨年亡くなった生徒がいる。行政も対応し、幾つもの注意喚起かんき看板が設置された。近隣住民の有志が黄色いはたを持って立っていたり、新しい花の入ったコップやお菓子やジュースが電柱の根元に常に供給されていたり、事故多発地点感がすごい。

 けれど事故はなくなる気配もない。見通しが悪いとか、路面状況が特殊といった事情でもなく、事故原因は大抵異なっていて、この付近で事故が起こる主因しゅいんがコレ、というのはないらしい。

 この謎に対して、「『ここでよく事故が起こるんだ』という心理が逆に働きかけて事故らせている」という心理学的要因説を語る人もいたが、一昨年おととし、信号に突っ込んで大量にイカをぶちまけたのは土地勘のない県外のトラックだったし、「カーナビがこの付近でだけ誤作動するんだ」という電波ジャミング説を唱える人もいたらしいが、去年、車がガードレールとごっつんして運転手即死亡事故ではカーナビ付いていなかったそうだ。「もはやこれは何かしらののろいじゃね?」と心霊現象説も提示されたのだけど先月、本当にヤバイほど霊感のある事で定評のある佐村河内さむらごうちせめるという霊能者がこの馬見豊ばみゆた三角みすみ商店街に来た時に驚愕きょうがくして「マジかよヤベエ、ここ霊マジねえよ、なんだこれ、ヤベエ。霊が全然居ないとかヤバすぎだろ。ゴーストのいねえゴースト版ゴーストタウンかよ。マジヤベエ帰る」と少なすぎる語彙ごいで言って青ざめてふるえながらテレビ番組の仕事中だったがとにかくスタッフに謝りながらすぐ帰らせてくれと言ったというエピソードがある。「なぁに、ちょっとくらい地縛霊じばくれいがいた方がかえって安全」という、「むしいのある野菜の方がかえって美味おいしい」みたいな世界観かよって話だが、帰ろうとした佐村河内攻に原付が突っ込んで腰椎ようつい骨折というオチまでついている生粋きっすいのヤバヤバ地帯であった。

 しかし、りらせにとってそれはどうでもよかった。今まで幸いにもこの付近で事故にったことはなかったので、ヤバイエピソードもある程度は尾鰭おひれがついているんだろうと思っていた。だから馬見豊三角ばみゆたみすみ自体には恐れていないのだ。問題はその直後にある公営住宅だ。

 そしてやはりりらせは無事に三つ目の信号機であるアーケード前横断歩道も渡り終える事ができた。赤だったが、車が全く来ていなかったので無視した。普段はちゃんとこの信号も守っている。

 アーケード前を過ぎると、次は公営住宅の前を横切る事になる。市営しえい馬見豊三角、それが公営住宅の名前。嫌な予感は市営馬見豊三角の入口から、ドライアイスからく二酸化炭素よろしく地をうようにもくもくと道にれ込めてきている、ように見える。だんだん近づいていくと、小さな女の子の泣き声がしている、「かえしてー」と聞こえる。ああ。終わった。とりらせは思った。

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