第7話 混浴の露天風呂は冷たすぎて入れない

(1)


 新曲のプロモーションがだいたい終わった後、テレビの温泉紹介番組にでることになった。

本当はメンバー全員で出演するはずだったが、ちょうど高校の中間試験の日程と重なってしまった。

他のメンバーが赤点を取って、追試を受けることになって日程が空いているのは私と彩香ちゃんだけだった。

場所は奥日光で混浴の温泉だと聞いてびっくりしてしまったが、水着を着て入るから心配ないとマネージャーに言われた。

収録の当日はロケバスと一緒に高速道路を走って日光のいろは坂を登った。

いろは坂は曲がり角が急で、車が何度も繰り返し曲がると坂の下が見下ろせて結構怖かった。

ロケバスが最初に向かったのは日光だ。

日光に行くのは中学校の修学旅行以来だったので懐かしかった。

有名な日光の鳴き龍の下で手を叩く場面を収録したり、巫女さんの踊りを収録したりした。

台詞はその場でディレクターが適当に考えてあとはアドリブで喋った。

他の観光客のじゃまにならないようにリハーサルもなしで一発収録だった。

日光での収録が済んだあと目的地の温泉に着いた。

隠れた秘湯ということで、建物はかなり古くてまるで明治時代みたいな雰囲気だ。

時間が無いのですぐに収録が始まった。

スタッフに肌色のビキニの水着を渡されると、更衣室で着替えてその上から体にタオルを巻いた。

すっぴんでテレビにでるわけにはいかないので、お化粧はメイクさんに丁寧にやってもらった。

更衣室をでると目の前は混浴の露天風呂だ。

浴槽は岩で作ったひょうたん型で、周りには生け垣が作ってあるがその外は大きな山が取り囲んでる。

足の先を湯に漬けて湯の温度を確かめてみたが結構熱い。

女の人が何人か入っているけどあらかじめ用意したエキストラでグラビアアイドルの娘らしくてバスタオルからはみ出しそうな巨乳だ。

撮影の準備もすんだらしいので゛私たちは体にタオルを巻いたまま浴槽にはいってスタンバイした。

男性用の更衣室からビンビンシステムのバンピーさんとトンピーさんがでてきて、テレビカメラの前で温泉の紹介を始めた。

紹介が一通り終わると、二人はおどけたそぶりで敷石の上で滑った格好をしてみせた。

腰にまいたタオルがめくれて、私たちの場所からはオXンXンが丸見えになった。

テレビには映らないからいいけど、わざと私達に見えるようにやってるらしい。

二人が私たちのすぐそばまできて「二人とも温泉にはよく来るの」とリハーサルで練習した会話を始めた。

「私達温泉大好きなんです」と答えると「いつもは誰と来てるの」と聞かれた。

リハーサルではしなかった会話なので私はドキッとした。

さすがに人気のお笑いタレントだけあって会話はアドリブだ。

私達はアイドルだ。

彼氏と来てますなんて答える訳にはいかない。

「アイドルになる前は家族でよく来てました。露天風呂も大好きです」と彩香ちゃんがとっさに答えたのでなんとか無難に切り抜けたと一安心した。

お風呂の湯が熱くて顔にから汗がでてきて、お化粧の下に汗が溜まるので顔が熱くて大変だった。

露天風呂での収録が終わると、あとはすぐに夕食の様子を収録することになった。

夕食の時間にはまだ早くてお腹は全然空いてないが収録の都合でしかたない。

汗で化粧が崩れてるので、いったん化粧を全部落としてから改めて化粧をやり直したので結構時間が掛かった。

「食事の紹介も番組ではとても大事だから美味しそうに食べてね」と事前にディレクターに指示された。

食事の番組では何を食べてもこんな美味しい料理食べたの初めてという顔をしないので演技が結構大変だ。

座敷に案内されて、食事が運ばれてくると見た目は普通の料理で唐揚げや、焼き魚とほかにお小皿が沢山並んでる。

どうみても普通の料理なのでどこをどう褒めていいのか判らない。

ビンビンシステムの二人はさすがに慣れていて唐揚げを一口食べると大げさに「これは旨い。本場の鳥は味が違いますね」とびっくりした顔をしみせた。

私も唐揚げを一口食べてみたが、普通の唐揚げでどこを褒めていいのか判らなかった。

彩香ちゃんはビンビンシステムの真似をして大げさに「美味しいー」と顔いっぱいの笑顔を作って見せた。

仕方ないので私は「ホント美味しいですね」と大げさに言った。

収録が一通り全部終わると旅館に一泊して翌日東京に帰ることになった。


(2)


とりあえず部屋で一休みしているとビンビンシステムの二人が来た。

このすぐ近くに露天風呂の秘湯があるらしい。

彩香ちゃんはすっかり乗り気で、私たちは四人で車に乗って秘湯に出かけることにした。

しばらく車で山道を登ると行き止まりだ。

車を止めて山道をしばらく歩くと、確かに山小屋みたいな屋根が見えてきた。

近くまで来ると山の中に確かに小さな温泉があって、その横には掘っ立て小屋の更衣室がある。

周囲からは丸見えだがその分景色はいい。

温泉には誰も入っていない様子だったので、私達は更衣室で服を脱いでからタオルを巻いて温泉に入った。

熱いといけないと思って足の先を湯に漬けてみたが全然熱くない。

腰まで入ってみたがまるでプールにでも入ってるみたいに冷たい。

温泉の湧き出ている近くにいけば熱いかと思ってトンピーさんが一回りしてみたが熱い所は何処にもない。

このままだと体が冷えて風邪を引いてしまうので、私達は仕方なく着替えて車に戻った。

体が冷えてとても我慢できない。

バンピーさんが携帯を取り出すと地図を検索して「この近くにジャグジーバスのある温泉がある」と言い出した。

ジャグジーバスなら冷たくて入れないなんてことは絶対に無いはず。

すぐに車で温泉に向かったが、着いてみるとなんだか変。

普通の温泉旅館ではないらしい。

部屋に入ると中央に大きなジャグジーバスがあるが、部屋にジャグジーバスがあるって事自体どうも変だ。

部屋の中を見回してみると、自動販売機が置いてある。

飲み物以外にも変なものがいろいろ買えるようになってる。

私が彩香ちゃんに「ねえ、ちょっと」と半分言いかけると彩香ちゃんもここが普通の温泉旅館ではないと気が付いたらしい。

「私、こうゆう所に入るの初めてなの」とカマトトぶって品を作った。

ジャグジーバスの湯が溜まったので彩香ちゃんがさそっく湯に入ったが男の人が見ているのに丸裸だ。

バンピーさんもすぐ丸裸になってジャグジーバスに入った。

「有紀ちゃんも早くおいでよ、気持ちいいよ」と彩香ちゃんに言われて私は困ってしまった。

私は彩香ちゃんとビンビンシステムのバンピーさんが以前から付き合っているらしいと気が付いた。

合コンに誘われた時もいつもバンピーさんが一緒だし、帰る時もよく一緒にタクシーに乗っていた。

私が戸惑っていると、トンピーさんが裸になって「一緒に入ろう」と言って私の手を引っ張った。

仕方なく私も裸になって、みんなと一緒にジャグジーバスでしばらく遊んだ。

まるで子供にでもなった気分で遊んだ後は、ゆっくりとお楽しみの時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る