第8話 クールジャパン親善大使は夜のお仕事
(1)
新曲の録音が終わったころにフランスで行われるジャパンエキスポへに参加すると決まったとマネージャーが教えてくれた。
ジャパンエキスポってなんなのか全然しらないけど、日本の文化を紹介する展示会らしい。
日本からのアイドルが参加するライブも行われて私達ラブエンジェルズも出ることになったとの話。
フランスにはまだ行ったことがないので私も他のメンバーも大喜びだった。
ジャパンエキスポに出発する前に、クールジャパン担当大臣の稲岡先生を表敬訪問することになった。
ジャパンエキスポは日本の政府も後援していて、クールジャパン担当大臣が責任者らしい。
テレビのジャパンエキスポ特集の番組でも放送されることになっていて、相手が大臣と聞いてかなり緊張した。
収録は私たちが大臣室に入るところから始まって、なんどか取り直しをしたあと次に稲岡先生と対談する場面を収録した。
大臣はかなり年上で、私のお爺ちゃんくらいの年で背広をしてネクタイをしていた。
なんだかネクタイの柄が変だと思ってよく見ると、アニメの絵が描いてある。
さすがにクールジャパン担当大臣だと思って、感心してしまった。
台詞は前もって台本を渡されていて、その通りに喋ればいいだけだったけど緊張して何度か取り直しをした。
番組の収録が終わった後私とだけ特別に食事に誘われた。
大事な話があると稲岡先生に言われて断るわけにもいかない。
高級なフランス料理店に案内されると、食事をしながら家族や学校の事などをいろいろと聞かれた。
大事な話というのは家族や学校の事だったのかしらと思ってなんだか不思議な気がした。
食事もだいたい済んだころ「実はクールジャパン親善大使というのを毎年選んでいてね」と稲岡先生が話を切り出した。
「君たちラブエンジェルズが今年のクールジャパン親善大使にぴったりだと推薦しようと思うんだ」と稲岡先生が言い出したので私はどうやら大変なことになりそうだと気が付いた。
「去年のクールジャパン親善大使は有紀ちゃんもしってると思うけどフラワーガールズになって貰ってね。代表は美優ちゃんにやって貰ったんだ。もちろん僕が推薦したんだけどね」と稲岡先生に言われてそういえばテレビのニュースで見たような気がした。
「クールジャパン親善大使になるとね、オープニングセレモニーで挨拶したりレセプションに出席したりといろいろ大変なんだけど大丈夫。挨拶文とかは全部事務方が用意するしレセプションにも通訳が付くからね。全然心配いらないんだ。有紀ちゃんやってもらえるよね」と稲岡先生に言われて私は返事に困った。
私にそんな大役が務まるかとても自信はないし、マネージャーに相談せずに私が勝手に決めちゃったら後で怒られるかもしれない。
そうは言っても、こんなチャンスは逃したら二度とない。
「喜んでやらせて頂きますでございます」と答えたが、敬語など普段使ったことがないので敬語の使い方が間違ってるのではと気になった。
数日後にマネージャーからラブエンジェルズがクールジャパン親善大使に正式に決まったと伝えられた。
代表は稲岡先生が言っていたように私だった。
ラブエンジェルズの他の女の子達はなんで私が代表に選ばれたのかマネージャーを問い詰めたが、英語の発音が私が一番上手だからとの説明に納得していた。
(2)
ジャパンエキスポが開催されるパリには数日前に出発して現地で観光旅行ができるといいと思っていたけどスケジュールが一杯でとてもそんな余裕はなかった。
私は前夜祭に出席しないといけないので、他のメンバーより先に出発することになった。
マネージャーと一緒にフランス行きの飛行機に乗ったがいつもはエコノミークラスの席なのに今回はビジネスクラスだ。
政府が切符を用意してくれたので、予算のことは考えなくていいらしい。
もともと体が小柄だからエコノミークラスでも全然らくに座れるけどビジネスクラスは座席が一回り大きい。
飛行機が空を飛び始めると、マネージャーが私に紙切れを渡した。
前夜祭の挨拶と、当日の開会の挨拶の原稿だった。
英語で書いてあるので意味は全然わからないけどその通り読めばいいらしい。
難しい単語の下にはカタカナで読み方が書いてあるので、何度も練習した。
マネージャーの話では原稿はあらかじめマスコミに配布してあるので、読み間違えて意味が通じなくても問題はないらしいので少しだけ安心した。
飛行機がパリに着くと、さっそく現地の大使館の車が迎えに来ていた。
車で前夜祭の会場まで行くと、控室で着物と帯を渡された。
前夜祭には着物を着て出席することになっているらしい。
私はそんな話を聞いていないのでかなり慌てた。
成人式はまだだし、私が着物を着たのは七五三の時くらいだ。
とても一人で着物なんか着られない。
どうしようかと思っていると、着物の着付け係の女性を紹介された。
さすがに外務省だけあって、やることに手抜かりはない。
さっそく着物の着付けをやってもらたあとは、美容師の女性に髪を結ってもらってお化粧をした。
時間になって前夜祭の会場に案内されると、現地のマスコミの記者が大勢詰めかけている。
私の周りにはカメラマンが大勢取り囲んで、まるで私が主賓みたいな扱いだ。
私以外にはフランス人の女性が何人か来ていたが、まるで結婚式にでもでるようなお洒落なドレスを着ている。男の人たちはみなタキシードを着ていて、まるで映画の一場面みたいな雰囲気だった。
前夜祭が始まると最初に日本大使の挨拶があり、次にフランスのアクロン大統領が挨拶した。
次に私が用意した原稿を読む番になって、私は胸がドキドキして死にそうになった。
原稿を片手に持ちながらなんとかスピーチを終えると、あとは順に次のスピーチを聞いているだけ。
スピーチはみなフランス語なので聞いていても何をしゃべっているのかは全然わからない。
スピーチが一通り終わった後は、アクロン大統領が乾杯の音頭を取ってパーティーが始まった。
すぐにアクロン大統領が私に話しかけてきたが、何を言ってるのかわからない。
私のすぐそばには外務省から派遣された通訳の女性がつきっきりで通訳してくれるのでなんとか話をした。
難しい話をされても困ると思っていたけど「フランスに来られるのは初めてですか」とか当たり障りのない世間話だったので一安心した。
(3)
前夜祭は日本舞踊のデモンストレーションが途中であっただけで、すぐに終わったので私は一安心した。
控室にもどって着付け係に着物を脱がせてもらって着替えると、やっと気分が楽になった。
宿は前夜祭が行われたホテルに取ってあるということなので、私は部屋に案内された。
エレベータで一番上の階に上がると、スウィートルームの前にマネージャーが待っていた。
「これ、今夜の寝間着だからね」と大きな紙袋を渡されたが、寝間着にしては包みが大げさだ。
「それから、今夜これ使ってね」と小さい箱も渡された。
部屋に入ってみると随分と豪華な飾りつけで、まるでお城の中見たい。
私は気になってマネージャーに渡された紙袋の中身を確かめてみた。
レース模様が一杯ついたフワフワの生地はネグリジェだった。
まるで結婚式の初夜にでも着るようなスケスケのネグリジェをマネージャーが私に渡すのはどう考えてもおかしい。
部屋のクロゼットを開けると、大きな旅行鞄が置いてありハンガーには着替えの背広とネクタイが掛けてある。
見覚えのあるネクタイは稲岡先生がいつもしていたアニメ柄だ。
どうやら私は稲岡先生と同じ部屋に泊まるらしい。
私は気になってベッドを確かめてみると、大きなダブルベッドが置いてある。
私は稲岡先生と同じベッドで寝ることになるらしい。
クールジャパン親善大使に私が選ばれるなんて、変だと思ってたけど稲岡先生が自分の好みでアイドルの女の子を選んでいたらしい。
それも夜の接待付きだ。
私はどうすればいいのか分からなくなった。
今夜私が稲岡先生の相手をするのを拒めば、明日の開会式やラブエンジェルズのライブだってどんな事になるか分からない。
私の決心に他の4人の運命がかかっていると思うと、心臓が握りつぶされたような気分だ。
部屋のドアが開いて稲岡先生が入ってきた。
今日の前夜祭でお酒を飲んだらしくて赤ら顔だ。
稲岡先生は私が先に部屋に戻っているのを見て嬉しそうな顔をすると「僕はね、女性活躍活性化プロジェクトチームの委員長もやっていてね。有紀ちゃんは民間委員にぴったりだ」
こうなったら稲岡先生に気に入られるしかないと思って私は稲岡先生の見ている前でネグリジェに着替えた。
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