第4話 グラビア撮影は大胆水着で逃げられない

(1)


 新曲のレコーディングが終わった後マネージャーに「雑誌のグラビアの仕事が入ったから明日写真スタジオに行ってくれるかな」と言われた。

若い男性向けのコミック雑誌らしくてグラビアに載せて貰えば新曲の宣伝になるとの事だった。

表紙載るのはには私一人らしくて、なんで私が選ばれたのか理由が分からない。

マネージャーに聞いてみると写真家の篠塚先生が私を特に気に入っていて私ならと指名したらしい。

理由はマネージャーにも分からないらしくて篠塚先生に会ったら直接聞いてみたらと言われた。

翌日の午後メイクさんと一緒に写真家の篠塚先生の写真スタジオまでタクシーで行った。

メイクさんの話では篠塚先生はかなり有名な写真家でアイドルの宮川千絵ちゃんのヌード写真も篠塚先生が撮影したとか。

それがきっかけで今は千絵ちゃんは篠塚先生のお嫁さんになってるとの事。

私は千絵ちゃんの事はよく知らないけど、ひと昔前は国民的アイドルで凄い人気だったらしい。

今はアイドルグループが星の数ほどあってアイドル歌手というだけでは大して注目もされないけど、千絵ちゃんは毎晩テレビの歌番組に出るほどの大人気だったらしい。


(2)


 篠塚先生の写真スタジオに着くと、篠塚先生は嬉しそうな顔で「僕が写真家の篠塚です」と言いながら右手を差し出してきた。

握手をしないといけないらしくて、私も右手を出して手を握った。

篠塚先生は私の手を何度もしっかりと握ってなかなか離してくれなかった。

「ラブエンジェルズは最近大人気だね。僕も注目しているんだよ。歌も上手だしダンスも凄い。それに一人一人個性があって表情も豊かだしね」と篠塚先生が褒めちぎるのを聞いてさすがに有名な写真家さんだと思った。

撮影の前に気分をリラックスさせるため楽しい会話で雰囲気作りをするのも写真家の仕事の内なんだ。

それにしても私の事をいろいろよく知っている。

前もって下調べをして話す話題を用意していたらしい。

さすがに一流の写真家さんはやることが違うとすっかり感心してしまった。

しばらくお喋りをしたあと篠塚先生が「じゃあ、これから早速プールに行くからね」と言い出したので私はびっくりしてしまった。

私は一応はアイドルで人気もそこそこだ。

プールなんかで撮影したら、見物人が大勢集まって大変な騒ぎになってしまう。

私が怪訝な顔をしているのを見て篠塚先生が「プールは貸し切りだから大丈夫、誰にも見られずに撮影できるから安心していいよ」と言ってくれた。

だけどプールを貸し切りにするなんてやっぱり変だ。

プールを貸し切りになんかしたらいくらお金が掛かるか分からない。

映画の撮影だったらプールを貸し切りで使うのはあるかもしれないけどたかがグラビア撮影でそんな大げさなことをするはずはない。

篠塚先生は私がまだ怪訝な顔をしているのを見て「大丈夫だよ、いつも撮影に使ってるプールでね、マンションの屋上にある小さなプールなんだ」と教えてくれた。

マンションにプールがあるなんて話は聞いたことが無いけど、高級なマンションならプールがあってもおかしくない。

小さなプールなか借り切ってもたいしたお金はかからないし、マンションの屋上なら外から見られることもないと思って納得した。


(3)


 篠塚先生の車で近くのマンションまで行くと、エレベータで一番上の階に案内された。

ドアを開けて部屋に入ると、見た目は普通のマンションの部屋だがベランダの先にプールがあるらしい。

別の撮影チームが撮影中らしくて、部屋には撮影の機材を入れるバッグが沢山置いてある。

「2時からの時間を予約してあるからね、もうすぐだから水着に着替えてもらえるかな」と篠塚先生に言われた。

だけどどこが着替え室なのか分からない。

「どこで着替えればいいんですか」と篠塚先生に聞いてみると「奥にバスルームがあるからそこで着替えができるよ」と言われた。

渡された水着を拡げてみると大胆な紐ビキニで体を隠す布の面積も小さくてかなり過激だ。

私はとてもこんな水着は着れないと思ったけど、今更いやだとは言えない。

とりあえず急いで着替えを済ませると私は体にバスタオルを巻いて篠塚先生の居る部屋に戻った。

篠塚先生はバッグからカメラを取り出して、レンズを並べて撮影の準備をしている。

予定の2時を少し過ぎたころ撮影が終わったらしくて、ベランダの戸からビデオカメラを持った撮影のスタッフが出てきた。

撮影スタッフの後から女優さんらしい女性が出てきたがどこかで見た顔だ。

髪形がいつもと違うのですぐには判らなかったがどうやらイブニングガールズの美優ちゃんらしい。

美優ちゃんも私に気が付いたらしいが、知らん顔で目をそらせた。

私も篠塚先生には黙っていた方がいいと思って何も言わなかった。

時間が無いので私は篠塚先生と一緒にすぐにベランダからでてプールに向かった。

細長いプールには綺麗な水がいっぱいで、斜めに張られたガラス窓から差し込んだ光で水が輝いて見える。

「じゃあ、バスタオル取ってもらえるかな」と篠塚先生に言われて私はバスタオルを外した。

こんな大胆な水着姿で男の人の前に立つのはこれが初めてなので、私は恥ずかしくて足が震えた。

「じゃあ、最初はプールをバックにちょっとしゃがんでごらん」と篠塚先生に言われて私はプールを背にしてしゃがみ込んだ

「胸が大きく見えるように両手を前で交差させるんだ」と篠塚先生に指示されて私は言うとおりに手を交差させた。

「うんそれでいい、とっても可愛いよ。口を少し開いて微笑んでご覧」と篠塚先生の指示が続いて私は言われるままにポーズを取った。

しばらくして撮影も終わったので、私はバスタオルを床から拾って体に巻いた。

プールから部屋に戻って着替えようとしたとき篠塚先生に「撮影はまだあるからね」と言われた。

奥の部屋に案内されると大きなベッドが置いてある。

まさかベッドのある部屋で撮影をするとは思っていなかったので私は戸惑った。

「だいじょうぶ、マネージャーにはちゃんと話をしてあるから、綺麗に撮ってあげるよ」と篠塚先生に言われて私は仕方なく部屋に入った。

バスタオルを体に巻いたまま、ベッドの端に腰を掛けると篠塚先生がすぐにカメラのシャッターを押し始めた。

色んなポーズで写真を撮った後「じゃあ、バスタオルは外しちゃおうか、ベッドの上でバスタオルは合わないよね」と篠塚先生に言われた。

私は水着姿でベッドの上で写真を撮るのもなんだか変だと思ったけどグラビアの撮影なら仕方ないと思ってバスタオルを外した。

篠塚先生のカメラのシャッター音に交じって変な声が聞こえてくるのに私は気が付いた。

「誰か助けてーーー」という女の甲高い声がはっきりと聞こえてきて私はこれは変だと気が付いた。

声は隣の部屋から聞こえてくるらしい。

どうやら声の主は美優ちゃんらしい。

演技で出している声なのか、それとも本気で助けを呼んでいる声なのかは聴いていてもわからない。

そういえば美優ちゃんの悪い噂を聞いたことがある。

ホストクラブに通い詰めてかなりの額の借金を作ってイブニングガールズを辞めさせられそうになってるとか。

週刊誌にも書かれたことがあって随分と話題になった。

美優ちゃんがお金のためにビデオに出演するというのはありそうな話だ。

篠塚先生は撮影に夢中になっていて隣の部屋の声に気が付いた様子はない。

もしかして気が付かない振りをしているだけかもしれないと私は不安になった。

不意に耳元で「有紀ちゃん助けて」と大声で叫ぶ声が聞こえた。

美優ちゃんが隣の部屋から逃げて、私が篠塚先生と撮影中の部屋に飛び込んできたんだ。

美優ちゃんの後からすぐにビデオの撮影スタッフらしい男が部屋に入ってきた。

男優さんらしい男の後からは大きなビデオカメラを抱えた男が付いてきた。

「おい、撮影はまだ終わってないぞ、ちゃんとやるまでは帰さないぞ」と男が美優ちゃんを怒鳴りつけて来た。

美優ちゃんは「話が違います、そんなこと聞いてません」と言い返したが声が震えている。

私の顔を見て不意に男が「おいそっちの女は何処の事務所なんだ」と篠塚先生に聞いた。

篠塚先生は「撮影の邪魔をしないでくれますか」とやや怯えた声で力なく答えた。

「ちょうどいい、そっちの女もついでに撮らせてもらうぜ、事務所にはあとでちゃんと話をつけてやるからそれでいいだろう、話は決まりだ」と男が訳の分からないとこを言い出した。

私は逃げようと思ったがどこにも逃げ場所はなかった。

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