第3話 男性アイドルのバースディパーティーで野球拳

(1)


 新曲の録音が済んだ後、雑誌の対談をすることになったとマネージャーに言われた。

昔からある有名な音楽雑誌で、対談の相手はギタリストで有名なマイケル・リーマンさんだとの話。

私はマイケル・リーマンさんの名前を知らなかったけど、かなり有名なギタリストらしい。

アメリカ人だけれど日本に長くいて日本語はペラペラだというので一安心した。

対談の場所はマイケルさんの都合で録音スタジオの控室ですることになった。

当日六本木の録音スタジオに行くと、マイケルさんが録音の途中で休憩しているときに対談をすることになった。

さっとく私たちが一人づつ挨拶をするとマイケルさんは「君たち可愛いね」とほめてくれた。

たぶんお世辞だと思ったけど可愛いと言われたら一応は嬉しかった。

対談は雑誌が企画しただけで、マイケルさんは私達ラブエンジェルズの事は殆どなにも知らない様子だった。

事前にプロモーションビデオは見てくれていたらしくて、新曲やダンスの事をいろいろい聞かれた。

マイケルさんに「女の子の歌は魂が無いからね。踊りだってラジオ体操みたいで、見て感動する踊りじゃないしね」と言われた時は一瞬心臓が凍り付いた。

だけどマイケルさんは別に悪口のつもりではないらしくて自分のやってるロックと比べてアイドルのやるような音楽は幼稚だと言いたいらしい。

彩香ちゃんは何か言い返したげな顔だったが、うっかりしたことを言ってマイケルさんを怒らせたら対談が台無しになってしまうので黙っていた。

特に記事に載せたいテーマがあるわけではなかったらしくて、適当に雑談していたらそれで対談は終わった。


(2)


 「よかったら録音の見学をしていかないか」とマイケルさんに誘われた。

私達は予定があったけどマイケルさんの録音に立ち会う機会など滅多にないので私と彩香ちゃんが残って見学することにした。

ガラス張りのコントロールルームに案内されると、レコーディングエンジニアの男性からヘッドホンを渡された。

マイケルさんはガラスの向こうの部屋でギターの準備をしている。

マイケルさんが手にしたギターはフレットの所に汚れたような模様が付いている。

よく見るとギターのフレットがすり減って色が変わっている。

ギターくらい新しいのを買えばいいのにと思ったがそうゆう問題でもないらしい。

録音は他のパートは全部録音済みなので、あとはマイケルさんのギターを重ねるだけとの話。

マイケルさんの演奏が始まると、ヘッドホンからはギターの音だけが聞こえてきた。

まるでノコギリでも弾いてるような歪んだ音は、ホラー映画にでもでてきそうな感じだ。

演奏はめちゃめちゃスピードが速くてマイケルさんの指の動きはとても信じられないくらい細かい。

さすがに世界でも一流のギタリストだとすっかり感心して見ていた。

途中に間奏のパートになるとギターの音がギュイーンとお腹に届くくらいに響いてきた。

マイケルさんは顔を歪めて、眉毛が変な形になって気持ちよさそうな顔で頭を振ってる。

私は男の子が変な事をしてもらってるときの顔に似てると気が付いて思わず笑いそうになった。

録音は途中に休みを入れて何度か繰り返したので結構時間がかかった。

毎回演奏の仕方が少しづつ違うので、さすがにプロだと思った。


(3)


 録音の見学のあとマイケルさんに「これから予定あるかな、よかったら一緒にクラブに行かないか」と誘われた。

「音楽はね、体で楽しむものなんだ。君たちの音楽じゃ楽しめないだろう、クラブにいけばどうやって体で音楽を楽しむのかよく判るよ」とマイケルさんに言われて私はラブエンジェルズをけなされてるのかと思った。

彩香ちゃんが「私クラブって行ったことないんです」と答えると「じゃあ決まりだこれから行こう」とマイケルさんが勝手に決めてしまった。

マネージャーからはクラブにはいかないようにといつも注意されていた。

アイドルの女の子が行くような場所じゃないし、トラブルに巻き込まれて週刊誌にでも載ると大変だからとの理由だった。

マネージャーに行くなと言われている分彩香ちゃんは興味津々で行ってみたがってるらしい。

マイケルさんに誘われたと言えば言い訳になると思って私も彩香ちゃんと一緒にクラブに行くことにした。

録音スタジオをでて、大通りをしばらくあるくと大きなビルに案内された。

正面の入り口から入ると、薄暗い店の中には大勢の男女が踊っていて正面にDJのブースが見える。

「音楽を聴いてると自然に体が動いちゃうんだ。それが踊りなんだよ。音楽を楽しむってことはそうゆう事なんだ」とマイケルさんが教えてくれた。

確かに踊って居る男の子も女の子も私たちの踊りとは全然ちがって、見ていても楽しそうに踊ってる。

「君たちも踊ってごらん、曲に合せて体を動かすんだ」とマイケルさんに言われて彩香ちゃんも踊り始めたがいつもとは勝手が違う。

なんだか変な踊りになってしまって思うようには踊れない。

それでも何曲か踊っているうちに他の女の子の真似をしてそれらしく格好が付いてきた。

お酒を飲みながら何曲か踊って居ると見慣れた顔の女の子が踊っているのを見つけた。

イブニングガールズの美優ちゃんだ。

美優ちゃんとは特に親しい訳でわないけど音楽番組で何度か一緒だったことがある。

美優ちゃんも私達に気が付いたらしくて踊りを止めて歩み寄ってきた。

「ねえ、これから誕生パーティーがあるんだけど一緒にこない。この近くなの」と美優ちゃんに誘われた。

人気男性アイドルグループ「スーパーノバ」のラッキーさんの誕生パーティーが今夜この近くであるらしい。

スーパーノバと言えば私がまだ小さかった頃からの国民的アイドルグループだ。

ラッキーさんはバラエティー番組の司会もしていて大人気だ。

こんなチャンスは逃したら二度とないかもしれない。

私達は大喜びで美優ちゃんと一緒にラッキーさんの誕生パーティーに行く事にした。


(4)


 クラブを出て裏通りを少し歩くと、大きなビルの裏口に案内された。

ビルの守衛さんに挨拶して裏口からエレベータのホールに入ると、エレベータで8階に上がった。

エレベータを出ると、すぐ目の前にドアがあって呼び鈴が付いているだけ。

美優ちゃんが呼び鈴を押して何か言うとドアが開いた。

秘密の倶楽部らしくて一般の人は入れない仕組みになっているらしい。

真っ赤なカーテンをくぐると、狭い通路のさきは大広間になっている。

ラッキーさんの誕生パーティーはもう始まっているらしくて広間には大勢の男女が詰めかけていた。

中央のテーブルに飲み物が用意してあるので、とりあえず飲み物を取りに行くことにした。

カクテルらしい色の綺麗なグラスが沢山並んでるけど何のお酒なのかはわからない。

私は適当にピンク色のグラスを取って、口に含んでみた。

かなり強いお酒らしくて、舌がじんと痺れた。

彩香ちゃんも私と同じカクテルを手に取って口に含んだが、平気な顔をして飲み込んだ。

広間に集まっているのは、イブニングガールズの美優ちゃんの他にはモデルさんらしい背の高い女性が何人かいた。

私が知ってるのはダルタニアン洋子さんぐらいで、あとは知らない顔ばかり。

最近人気のお笑い芸人のマリアンヌ宏美さんもいたけど特に親しい訳ではない。

とりあえず顔を売らないといけないと思ったけど、さすがに自分から男性に話しかける勇気はない。

しばらくカクテルを飲みながら、部屋の様子を伺っていると突然手拍子と共に「野球するなら、こうゆう具合にしあしゃんせー」とラッキーさんが歌いながら踊りだした。

何が始まったのか一瞬判らなかったが、ラッキーさんと一緒にダルタニアン洋子さんが一緒に踊りだしたので私は野球拳をやってるんだと気が付いた。

野球拳はジャンケンをしながら負けた方が服を脱いでいく遊びで、私がまだ小さかった頃テレビで見たことがある。

女性の服を脱がすのが目的のエッチなゲームで普通に女の子がする遊びではない。

ダルタニアン洋子さんは最初のうちは負けると、腕時計を外したりネックレスを外したりしていたが、何度も負けて脱ぐものがなくなった。

野球拳を周りで見ていた男性たちが一斉に「脱げー、服を脱げー」とはやし立てるとダルタニアン洋子さんはミニのワンピースを脱いで下着だけの姿になった。

モデルさんだけあって、お洒落な下着はスケスケで露出度も高くて女性がみてもドキドキしちゃうくらい色っぽい。

おまけにパンティーはTバック。

見ていた男性は手を叩いたり、口笛をならしたりと大騒ぎしている。

さすがにモデルさんだけあって男性の前で下着姿になっても全然平気な顔をしてる。

私はいくら芸能人しか集まらないパーティーとはいえ自分の目の前で起きていることが信じられなかった。

私はこんなパーティーにはとてもいられないと思った。

私は彩香ちゃんと一緒にパーティー会場を抜け出した。

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