第2話 海外でPVを撮影のあとホテルを抜け出して大失敗

(1)


 新曲の録音が終わった後に海外でPVの撮影をする事になった。

場所はタイのプーケット島だ。

プーケット島にはまだ一度も行ったことが無いので、話を聞いたときは嬉しくて飛び上がった。

出発の当日は現地は暑いと言う話なので、みんなショートパンツにタンクトップというラフなスタイルで朝早く空港まで来た。

飛行機に乗ってる間中はみんなでお喋りをして、時間が経つのも忘れていた。

空港に着くと日本とは空の色も空気の香りも違っていて何を見ても新鮮なきがした。

撮影は一日で終わらせる予定で、翌日にはもう帰りの飛行機の予約を取ってある。

とりあえず撮影の前に昼の食事を済ませようという話になった。

私はきっと美味しいタイ料理が食べられるんだと期待したが入った店はマクドナルド。

マクドナルドだったら日本にもあるのにと思ってがっかりした。

マネージャーの話では「食べなれないタイ料理で、お腹を壊すと撮影に支障が出るから」との事だった。

まあそれも仕方ない話なので私たちは我慢してビッグマックを食べた。

食事の後はすぐに撮影のために浜辺に移動した。

真っ白い砂浜の向こうは真っ青な海が何処までも続いていて、日本の海とは大違い。

撮影は昼間天気のいい時にしないといけなので時間はあまりない。

さっそく撮影の準備に取り掛かった。

スタッフが大きな三脚を浜辺に立てて、カメラを用意するとその後ろに着替え用のテントを作ってくれた。

急いで水着に着替えたが、用意された水着はどれも大胆なデザインで肌の露出も多いい。

こんな水着でとても人前には出られないと思ったが、撮影の為だから文句など言ってる暇はない。

ラジカセから流れてくる音楽に合わせてダンスをしていると、いつの間にか見物客が集まり始めた。

海外の観光客らしくて私たちが日本のアイドルグループだとは知らない様子。

三回ほど歌に合わせて浜辺で踊ると、撮影は終了した。

急いで着替えを済ませると、みんなでホテルにもどって一日の予定は終わり。


(2)


 ホテルでシャワーを浴びて一休みするとマネージャーが夕食の誘いに来た。

私はてっきりホテルの外でタイ料理を食べに行くとばかり思っていたが、案内されたのはホテルのレストラン。

ウェイトレスの女の子にメニューを渡されたけど英語で書いてあって何がなんだか分からない。

日本のレストランだったら料理の写真がメニューに載ってるのが普通だけど、ここのメニューには写真がない。

何を頼んでいいのか分からないのでマネージャーが適当に注文した。

しばらく待って出てきたのは大きなビフテキだった。

日本で食べるビフテキの三倍くらいある大きさだ。

ナイフで切ろうと思ったけど硬くてなかなか切れない。

なんとかやっと一口切って口に入れたけど硬くてかんでも噛み切れない。

私はビフテキを食べるのは諦めて、付け合わせのサラダとポテトだけ食べた。

他の女の子達もビフテキを食べるのは諦めてサラダとポテトだけ食べた。

スタッフの男の人たちは頑張ってビフテキを食べたけどやっぱりとても食べきれなくて半分くらいは残してしまった。

ビフテキの後にコーヒーが出たのでなんとか食べた気分にはなった。

食事のあと私はせっかくタイに来たんだからどこか行ってみたいとそれとなくマネージャーに言ってみた。

マネージャーからは撮影が終わったらホテルからでないようにと言われてしまった。

観光旅行に来たんじゃないんだから撮影が終わったらすぐ日本に帰るんだ。次の仕事の予定が一杯あるから遊んでる暇なんかないとマネージャーに言われてみんながっかりした顔だった。

ホテルの部屋でテレビを見て時間を潰そうと思ったけど、テレビ番組はみなタイ語なので聞いていても全然訳が分からない。

しばらく歌番組を見ていたが、知らない歌手ばかりで見ていても全然面白くない。


(3)


 しばらくベッドの上でぼんやりしていたが、お腹が空いてきた。

ケータリングを頼もうとしたけど英語は苦手だ。

注文の仕方が分からないので諦めるしかない。

どうしようかと思っていると彩香ちゃんから電話が掛かってきた。

ホテルの近くに牛丼屋があるらしい。

日本だったら牛丼屋はどこにでもあるけどここはタイだ。

牛丼屋などある訳がない。

彩香ちゃんの話だと、ホテルのパンフレットに載っていて確かに牛丼と書いてあるとの事。

私は半信半疑だったけど、お腹が空いていてとても我慢できないので彩香ちゃんと牛丼屋に行くことにした。

彩香ちゃんが私の部屋まで迎えに来ると、ホテルのパンフレットを見せてくれた。

英語で書かれたパンフレットは何が書いてあるのか分からないけど、牛丼の看板がでてる店の写真が載ってる。

確かに日本語で「牛丼」と書いてある。

ホテルの前の大通りをしばらく歩いて角を曲がると少し先に「牛丼」の大きな看板が見えてきた。

この店に間違いなさそう。

店の中はかなり広くて日本の牛丼屋とはかなり雰囲気が違う。

ファーストフード店みたいな席が沢山ならんでいて、注文は受付のカウンターでするらしい。

カウンターには制服を着た男の子が立っているが日本人ではないみたい。

普通に日本語で注文して通じるかどうかはやってみないと分からない。

彩香ちゃんがカウンターで「牛丼、並み、つゆだくプリーズ」と試しに言ってみた。

彩香ちゃんはつゆだくの牛丼が大好きだけど「つゆだく」が通じるかどうかは分からない。

日本語が通じないのか、カウンターの男の子は少し首を傾げたそぶりをしたがすぐに「牛丼、並み、つゆだくですね」と日本語で答えてくれた。

日本語が通じたらしくてやれやれと思った。

私も彩香ちゃんと同じに「牛丼、並み、つゆだくプリーズ」と言ってみると男の子は彩香ちゃんの時と同じように「牛丼、並み、つゆだくですね」と復唱した。

すぐに丼に入った牛丼が二つでてきたが日本で食べるのと同じにつゆだくになってる。

タイでも「つゆだく」が通じるらしい。

さっそく空いてる席を探して、牛丼を食べ始めたが日本で食べるのとまったく同じ味。

彩香ちゃんとお喋りをしながら牛丼を食べたが、すぐにお腹が一杯になった。

後はホテルに戻って寝るだけと思って私達は牛丼屋を出た。

ホテルまでの帰り道を逆にたどって歩き始めたがなんだか変だ。

すぐにホテルに着くはずなのにいくら歩いてもホテルが見えてこない。

道を間違えてしまったらしい。

彩香ちゃんがホテルのパンフレットの地図を何度も確かめたがどこをどう間違ったのかさっぱり見当もつかない。

ちょうどタクシーが目の前に通りかかったので彩香ちゃんがタクシーを止めると二人で乗った。

ホテルの名前を運転手に告げるとすぐに車が動き出した。

しばらくして車は林の中に入ると、狭い道を山の上に向かって走りだした。

どうも変だ。

ホテルに向かっているとはとても思えない。

彩香ちゃんも変だと気が付いたらしくて、思いつく英語で「ノーノー、ロングウェイ」と言ってみたが全然通じない。

私が「ストップストップ」と大声を出すとやっと車が止まったが、外は真っ暗で何も見えない。

運転手が車のドアを開けると、私と彩香ちゃんの手首をしっかりとつかんですぐ前の小さな小屋に引っ張り込んだ。

小屋の中には数人の男がいてなんだか変な雰囲気だ。

これは危ない事になりそうだと気が付いて私は彩香ちゃんと一緒に必死で逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る