北風と太陽

「なあなあ、太陽君太陽君」

 太陽は「なに?」と聞き返す。

「勝負せえへん?」

「いや、しやんけど」

「えーっ、やろうや」

「いいって」

「なんでなん。どうせ、そうやって下界見てるだけやろ。暇やん」

「いやいやいや、そんな暇じゃないから。シーズンでしか仕事のない人と一緒にせんといて。こっちはな毎日見とかなあかんの」

 そうでなくても、太陽はやることが多い。まつられたり、時には雨雲に場所を譲ったり下界をの様子をうかがいながらうまくやっているのだ。それをこいつは…。

「あーそー、そんなに勝負するのが怖いんやったら、いいよ別に」

「そんな安い挑発に乗るか」

「あんなに、昔はいろんな勝負してたのに。懐かしいなあ」

「なに、いきなり」

 北風は明後日の方向を見ながら思い出を振り返り始める。

「歌唱力勝負の時に歌った歌今でも覚えてるわ」

「そんな勝負したか?」

 まったく記憶がない。

「したよ。 あーあ、あああーーあ」

「待て待て。おかしいおかしい」

「なにが、いい歌やろ」

「違いないけど、なんで俺が『SUN』歌ってることになってんねん。太陽が『SUN』歌うってどんだけ自分好きやねん」

「えっ!違うの」

「違うわ!」

「なーそれよりも、しょうぶしよーやー」

「嫌やって」

「簡単な勝負やって」

「どういうの」

「ほら、そこに旅人がいるやろ」

 北風が指さした方向には確かに旅人が一人いた。

「いるなぁ」

「あの旅人の服を脱がせるのはどう?」

「まあ、それぐらいやったらいいよ」

「じゃあ、まず俺からな」

 すると北風は思いっきり力強く「ビューッ」と吹き付けました。

 旅人は震えあがって、服をしっかり押さえました。

「おお、いい感じやな。もう一息や、いけいけ」

 太陽は感心しました。もう一息で服を吹き飛ばせそうだったからです。

「はあ……はあ、あーっ…はあ」

「どうしたん」

「あかん、はあはあ…息が…」

「なんでやねん。風吹かすしかできることないやろ」

「いつもはうちわでやってるから」

「うちわ!?」

「めっちゃ前に自分の息でした時につば飛ばしすぎてべっちゃべちゃやって怒られてから変えてん」

 そんなことがあったのか。あれ?でも……。

「でも、吐息やから雨降ったりしてたわけやろ。あれはいまどうしてんの」

「前は、うちわ濡らしてやってたけど今はもっとすごいねん」

「どう変わったん」

「この扇風機みたいなやつな」

 そういうと北風はハンディータイプの扇風機を取り出した。

「これのなもち手部分のボタンを押すやろ。するとな、水でんねん」

「おおっ」

「で、こうやってボタン押しながら顔に当てると涼しいねん」

「なるほどな、これはええわ」

「そうやろそうやろ」

 北風は嬉しそうに水を出しながら吹きかける。

「ありがとう、もういいわ」

「そんな遠慮せんでいいって」

「いや、もうええから」

「いやいや、そんな遠慮しやんでいいって」

「もういいって言ってるやろ。見てみこれ」

 太陽は自分の顔を指さす。

「びっちゃびちゃや。しかも、俺太陽やから水蒸気で顔が火事みたいになってんねん」

「ほんまやめっちゃ燃えてるー」

「『めっちゃ燃えてるー』じゃないねん。誰のせいでこうなってると思ってんねん」

 北風のこういうところは大っ嫌いだ。

「じゃあ、次は俺な」

 次は太陽の番です。太陽はまずは優しく暖めました。

 すると旅人は羽織っていた上着を脱ぎました。

「よしよし、いい感じいい感じ。次はちょっと強くしよかな」

 すると、旅人は段々暑くなってきたのに耐えかねて川へと飛び込んでいきました。

「よし!俺の勝ちー。見たか、これが太陽の実力や。崇めたてまつれ」

「くそー、負けたわ。まあ、あと二本あるからな。次は…」

「もうええわ」

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