オッケーミラー
昔々、冬のある日のことでした。
雪が、綿毛のように舞っているときに一人の女王様は窓を開け、すこし身を乗り出して編み物をしていました。
雪を眺めながら編み物をしていましたから、うっかりと指を針でチクリと刺してしまいました。
「いっ!ああ、ああ、よそ見をしてステッチを縫うものではありませんね」
女王は、すぐに使用人を呼びハンカチを取りに行くように命じました。
ハンカチを待つ間も血は出ているわけですからポタポタと三滴の血が雪の上に落ちました。真っ白い雪の中で真っ赤な血の色が大変きれいに見えたものですからそれをずっと眺めていました。
「やはり、ここにいたんだね」
「あら、わざわざこちらまでいらっしゃらなくても私がそちらに行きましたのに」
「いいさいいさ。国王として高台から国を見渡すのではなく、一人の人間として地に足をつけて国を見るのも悪くないさ。それよりも、使用人を困らせないであげてくれ。さっきも、『女王陛下が血を流された』と叫んで走り回っていたよ。おかげで婦長も執事長も大慌てだ」
「みんな大げさなんですもの。この前なんて少し体調がすぐれなかっただけで、魔法使いや祈祷師、しまいには呪術師を呼んで呪いではないか調べようとしたんですよ」
「それは確かにやりすぎだな。まあ、でもそれぐらい気にかけているんだ。将来この国を継ぐ子になるのかもしれないのだから」
女王は「そうね」と答えました。
そして、女王は心の中でこう思いました。
(もしも、おなかの子が女の子であれば雪のように肌が白く、健康的な顔色、そして東洋人のような美しい黒髪。特に黒髪はジパングの人のようになればいいわね。かの国の人々の髪はブラックパールのように美しいと聞きますから)
それから、少し経ち女王様は一人のお姫様をお産みになりました。
お姫様は雪のように体が白く、すべすべもちもちのお肌を持ち、とても顔色が良く髪の毛はブラックパールのように光り輝き生涯寝癖しらずなほどサラサラでした。
しかし、女王様は産後一週間も経たずにお亡くなりになりました。
一年以上たちますと王様は後妻を迎え女王としました。
その女王様は、美しい方でしたが大変うぬぼれが強く、わがままな方で自分よりもほかの人が少しでも美しいとじっとしていられない方でした。
ところが、この女王様は前から不思議な鏡を持っておいでになりました。その鏡をご覧になるときはいつでもこうおっしゃるのでした。
「鏡や鏡、壁にかかっている鏡よ。国中で誰が一番美しいか言っておくれ」
すると鏡はいつもこう答えました。
「女王様、あなたがお国で一番美しい」
それを聞いて女王様はご安心なさるのでした。というのは、この鏡は嘘を言わないこと女王様は知っているからです。
そのうちに、白雪姫は大きくなるにつれてだんだん美しくなっていきました。お姫様がちょうど七つになった時には自然と動物が集まってくるほどに夢の国のプリンセス度合いが高くなっていました。
ある日、女王様は鏡の前に立ちお尋ねになりました。
「鏡や鏡、壁にかかっている鏡よ。国じゅうで、誰が一番美しいか言っておくれ」
すると鏡はこう答えました。
「ねえ、前から聞きたかったんだけどさあ。その質問毎日聞くのなんで?」
突然の質問返しに面を食らってしまいました。
「あのさあ、それはさあ。気になるかもしれないよ、自分の容姿を客観的に評価してもらえるっていいことだけどさあ。こんなに毎日聞かれたらこっちが参っちゃうよ」
「はあ」
女王様はなにが起こったかわからずとりあえず返事をしました。
「というか、あんたいくつだっけ」
「今年で三十八です」
「おば…じゃなくて、アラフォーじゃん」
「アラフォー?」
女王様は聞きなれない言葉に首をかしげました。
「えー、そこから教えないといけないの?めんどくさいなあ。まあいいや、アラウンドフォーティって言って四十歳らへんてこと」
「えーっと…それが何か」
女王様は鏡の言いたいことがわからず聞きました。
「つまりさ、外見の美醜について考えるだけじゃなく内外両立させる方向に転換していかないといけないってこと。なのにさあ、毎日毎日『私ってきれい』って聞いてくるって口裂け女でも言わないよ。それ以上にどれだけ自分好きなの、ナルシストなの。ウケるわー」
この時ようやく女王様は自分がバカにされていることに気がつきました。
「あなた、私のことバカにしているでしょう」
「いーや、してないけど」
「本当に?」
「本当。だっておいらは『嘘を言わない鏡』だよ。嘘ついたらそれこそ信用問題だよ。まあ、憐れんではいるけど」
鏡の歯に衣着せぬ物言いに女王様は絶句してしまいました。
「そっ、そう。とりあえず私の質問に答えてくれるかしら」
「はいよー。ちょっと待ってて『ミラる』から」
「ミラる?」
またもや聞きなれない言葉に女王様は首をかしげました。
「そうそう。おいらはいつもあんたの問いに対して国じゅうの鏡から情報を集めているのさ。鏡の中はつながっているからね。そして、その情報を検索することを『ミラる』というんだ。もとは情報屋のミラミルってやつに聞くのが始まりだったんだけど今じゃ検索すること自体を『ミラる』というんだ」
「へー」と、女王は鏡の世界の話を聞いて感心していました。
まさか、自分が知らないことがまだまだあるのだと感じたからです。
「お待たせお待たせ。では、発表します」
女王様は息を飲んで結果を待ちます。
「女王様、ここではあなたが一番美しい。しかし、白雪姫のほうが千倍美しい」
「へっ?」
女王様は思わぬ結果に気の抜けた声を出してしまいました。
女王様はお聞きになったその後、心を病んでしまいました。ある時は鏡を見て顔色を悪くされたり、深夜急に目が覚めたり、ご睡眠中にうなされたりされました。
さて、それからというもの女王様は白雪姫をご覧になるたびに酷くいじめるようになりました。まるで、一匹見つけたら百匹いるゴキブリのように負の感情は心の中で増えはびこっていきました。
これでは、自分が死んでしまうと思った女王様は、一人の狩人を自分のところに呼び寄せこういいつけました。
「あの子を森へ連れて行っておくれ。私は、もうあの子を二度と見たくないの。お前はあの子を殺してその証拠にあの子の血をこのハンカチにつけて私に持ってきなさい」
狩人は、その仰せにしたがって、白雪姫を森の中へ連れて行きました。狩人が、狩りに使う刀を抜いて、何も知らない白雪姫の胸を突き刺そうとしますとお姫様は泣いておっしゃいました。
「ああ狩人さん、そんななまくら刀で私の胸を刺さないでちょうだい。殺すなら、一思いに首を跳ね飛ばして。できないのであれば、私は森の奥の方に入ってもう家には決して帰らないから」
二十年もの間一緒に狩りをしてきた愛刀をなまくら呼ばわりされたことに傷つきながらもかわいいお姫様がかわいそうなので、
「じゃあ、早く逃げなさい。かわいそうなお姫さまだ。」といいました。
「きっと獣が食い殺してしまうかもしれないが、自分が手を汚さなくて済むならそっちの方がいい」
と思いました。
ちょうどその時イノシシが飛び出してきました。
狩人はそれを殺して、その血をハンカチにつけお姫様を殺した証拠に女王様のところに持っていきました。
女王様はそれをご覧になってすっかりと安心して白雪姫は死んだものと思っていました。
さてさて、かわいそうなお姫様は、大きな森の中で、たった一人ぼっちになってしまいました。お姫様は怖くてたまらずいろいろな木の葉っぱをみてもどうしてもいいのかわからないくらいでした。
お姫様は、とにかく駆け出してとがった石の上を飛び越えたりいばらの中を突き抜けたりして森の奥の方へと進んでいきました。獣はそばを通ることはあってもお姫様を傷つけようとはしませんでした。
白雪姫は走り続けとうとう夕方になるころ一軒の小さな家を見つけました。疲れを休めようと思ってその中に入りました。その家の中にあるものは、なんでもみんな小さいものばかりでした。ただ、なんともいいようがないくらい立派でした。
その部屋の真ん中には、ひとつの白いクロスをかけたテーブルがあり、その上には七つの小さなお皿さらがありました。またその一つ一つには、スプーンにナイフ、そしてフォークと七つの小さなコップがおいてありました。その他の家具もすべて七つずつありました。
白雪姫は大変お腹がすいておまけに喉が渇いておりましたから一つ一つのお皿からパンとスープを食べ、ぶどう酒を飲みました。
それが済んでしまうと今度は大変疲れていましたから寝ようと思って、一つのベッドに入ってみました。けれども、どれもこれもちょうどうまく体にあいませんでした。そして、七番目に選んだベッドがやっと体にあいました。
そして、敬虔なクリスチャンであるお姫様は神様にお祈りしてからぐっすりと眠ってしまいました。
日がくれて、あたりが真っ暗になったときに、この小さな家の主人たちがかえってきました。その主人たちというのは、七人の小人です。この小人たちは、銀山で働いており、毎日発掘作業をしていました。
小人は自分たちのの七つのランプに火をつけました。ランプの明かりで明るくなった部屋を見渡すとだれかがその中にいるということがわかりました。
なぜなら、小人たちが家をでかけたときからモノの配置が変わっていたからです。
第一の小人のベンが、まず口をひらいて、いいました。
「だれか、わしのいすに腰かけた者がいるぞ。」
すると、第二の小人のジャックがいいました。
「だれか、わしのお皿さらのものをすこしたべた者がいるぞ。」
第三の小人のチョロがいいました。
「だれか、わしのパンをちぎった者がいるぞ。」
第四の小人のマイクがいいました。
「だれか、わしのやさいをたべた者がいるぞ。」
第五の小人のワトソンがいいました。
「だれかわしのフォークを使った者がいるぞ。」
第六の小人のジョンがいいました。
「だれか、わしのナイフで切った者がいるぞ。」
第七の小人のクリスがいいました。
「だれか、わしのコップでのんだ者がいるぞ。」
それから、ベンが部屋を見渡すとじぶんのベッドがくぼんでいるのを見つけて、声をたてました。
「だれかが、わしの寝どこにはいりこんだのだ。」
すると、ほかの小人こびとたちがベッドへかけつけてきて、さわぎだしました。
「わしの寝どこにも、だれかがねたぞ。」
クリスは、じぶんのベッドへいってみるとその中で眠っている白雪姫を見つけました。 今度は、クリスが、みんなをよびました。
みんなは、なにがおこったのかと思ってかけよってきて、びっくりして声をたてながら七つのランプを持ってきて白雪姫をてらしました。
「おやおやおやおや、なんて、この子は、きれいなんだろう。」と、小人はさけびました。それから小人たちは、大喜びで白雪姫を起こさないようにそのままソッとねさせておきました。
そして、クリスは一時間ずつほかの小人の寝どこにねるようにして、その夜をあかしました。
朝になって白雪姫は目を覚まし、七人の小人を見て、おどろきました。けれども、小人たちは、とても親切にしてくれて、「おまえさんの名前はなんというのかな。」とたずねました。すると、
「わたしの名前は、白雪姫というのです。」と、お姫様は答えました。
「おまえさんは、どうして、わたしたちの家にはいってきたのかね。」と、チョロは聞きました。そこでお姫さまは女王様が、狩人を使って自分を殺そうとしたのを、狩人の善意によって助けられたこと、そして一日中、かけずりまわって、やっと、この家を見つけたことを小人たちに話しました。
その話をきいて、小人たちは、
「もしも、おまえさんが、わしたちの家事の一切を引き受けてくれるのであれば、わしたちは、おまえさんを家うちにおいてあげてるんだが。」といいました。
「はい、ありがとうございます。精一杯頑張ります」と、お姫さまは答えました。それから白雪姫は、小人の家にいることになりました。
白雪姫は、家事をきちんとこなしました。小人たちは毎朝山にはいりこんで、金や銀の原石をさがし、夜になると家にかえってくるのでした。
そのときまでに、ごはんの支度をしておかねばなりませんでした。ですから、昼間白雪姫は、たったひとりで留守番をしなければなりません。
そしてある時、親切な小人たちはこんなことをいいました。
「おまえさん、女王様には用心なさいよ。おまえさんが、ここにいることを、すぐ知るにちがいない。だから、だれも、この家の中にいれてはいけないよ。」
こんなことは少しも知らない女王さまは、狩人が白雪姫をころしてしまったものだと思っていました。だから、自分がまたこの国で一番美しい女になったと安心していました。
あるとき鏡の前にいって、いいました。
「鏡よ、鏡、壁かべにかかっている鏡よ。国中で、だれが一番美しいか、いっておくれ。」
すると、鏡が答えました。
「またその質問?ほんっとうに飽きないよね。まあいいや、ミラるからちょっと待って」
「さあ、早く答えなさい」
「そう急かさないでよ。最近は回線が混んで遅いんだから。ハイじゃあ言いますよ」
女王様は期待で胸を膨らませました。
「女王様、この国ではあなたがいちばん美しい。けれども、いくつも山こした、七人の小人の家にいる白雪姫は、まだ千倍も美しい」
「はい?」
これを聞いて女王様は大変驚きました。
「ありゃりゃ。お姫様生きてるね、これ」
「本当に?」
この鏡は、決して間違ったことを言わないのは知っていましたが、まさかと思い念のために聞きました。
「本当だよ。『嘘を言わない鏡』の名に懸けて」
こういわれては、さすがの女王様も返す言葉が見つかりません。
狩人が自分をだましたということも、白雪姫がまだ生きているということも、みんなわかってしまいました。
そこでどうにかして、白雪姫の殺害を計画することにしました。
「鏡よ、鏡、壁かべにかかっている鏡よ」
「なんだい?」
「誰が殺したかわからないように白雪姫を殺す方法を教えて」
「ついに実力行使というわけだね。そうだなぁ、縄で首を絞めるとかどうかな」
「そうね、やってみるわ。その前に狩人はどうしましょうか」
「ギロチンとかは?」
と、鏡は聞きました。
「いいえ、あれではダメよ」
「なんで?」
「隣国がやりすぎて革命が起きたのよ」
「……」
気まずい空気がながれます。
真っ先に鏡が口を開きました。
「じゃっ、じゃあ。こういうのはどうかな。吊るし刑」
「知ってるわ、脱臼させるんでしょ」
「そうそう、あれなら秘密裏に行えるしいいんじゃないかな」
「いや、でも痛そうだし」
「そこは気にするんだ」
鏡は姫様を殺そうとしているのに痛さを気にする女王様の感性を疑いましたが、質問には正直に答えるのでこう提案しました。
「それなら、狩人を直接呼んで注意するだけにすれば?そうすれば、いたくないし反省すると思うよ」
「そうね、そうしましょう」
そう言って女王様はすぐに準備に取り掛かりました。
それから数日が立ち女王様はついに計画を実行することにしました。
まずは自分の顔を黒くぬって、年よりの小間物屋のような着物をきて、だれにも女王様とは思えないようになってしまいました。
それから七つの山をこえて、七人の小人の家にいって、戸をトントンとたたいて、いいました。
「よい品物しなものがありますが、お買いになりませんか。」
白雪姫はなにかと思って、窓から首をだしてよびました。
「こんにちは、おかみさん、なにがあるの。」
「上等な品で、きれいな品を持ってきました。いろいろ変わったしめひもがあります。」といって、いろいろな色の絹糸であんだひもを、一つ取りだしました。
白雪姫は、「この正直そうなおかみさんなら、家の中にいれてもかまわないだろう。」と思いまして、戸をあけて、きれいなしめひもを買いとりました。
「おじょうさんには、よくにあうことでしょう。さあ、わたしがひとつよくむすんであげましょう。」と、年よりの小間物屋はいいました。
白雪姫は、すこしも疑う気がありませんから、そのおかみさんの前に立って、あたらしい買いたてのひもで結ばせました。すると、そのばあさんは、すばやくそのしめひもを白雪姫の首をまきつけて、強くしめました。
息ができなくなった白雪姫は死んだようにたおれてしまいました。
「さあ、これで、わたしが、いちばん美しい女になったのだ。」といって、女王様は急いで、出ていってしまいました。
それからまもなく、日がくれて、七人の小人こびとたちが、家にかえってきましたが、かわいがっていた白雪姫が、地べたの上にたおれているのを見たときには、小人たちのおどろきようといったらありませんでした。白雪姫は、まるで死人のように、息もしなければ、動きもしませんでした。みんなで白雪姫を地べたから高いところにつれていきました。そして、のどのところが、かたくしめつけられているのを見て、小人たちは、しめひもを二つに切ってしまいました。すると、すこし息をしはじめて、だんだん元気づいてきました。小人たちは、どんなことがあったのかをききますと、姫はきょうあった、いっさいのことを話しました。
「その小間物売の女こそ、鬼のような女王にちがいない。よく気をつけなさいよ。わたしたちがそばにいないときには、どんな人だって、家にいれないようにするんですよ。」と。
一方女王様は城に戻るやいなやすぐ鏡の前にいって、たずねました。
「鏡や、鏡、壁かべにかかっている鏡よ。国中で、だれが一番美しいかいっておくれ。」
すると、鏡はこう答えました。
「また同じ質問?もう定型文に登録していいかな、いちいち聞くのもめんどくさいよ」
「なんでもいいから早く答えなさい」
「いやいや、重要な問題だよ、今後の鏡業務にかかわってくる」
「じゃあ、その定型文登録でも何でもいいから早くしなさい」
「『ctrl+v』って言ってくれれば検索できるよ。あと…」
「なに!まだ何かあるの?」
さすがの女王様もイライラしてきました。
「もっとおしゃれにしない?」
「おしゃれってどんな感じ?」
「『オッケーミラー』っていうのはどうかな」
「今のより短くなっただけでしょう」
「この短さと手軽さがおしゃれなんだよ」
「……」
「あれ?伝わってない感じ?」
正直、女王様にはこの良さが全く分かりませんだした。しかし、これ以上話をするのも面倒なのでそれでいくことにしました。
「使っていくうちにわかるんでしょう、そういうもの良さは」
「確かにその通りだね」
「とりあえず検索しなさいよ」
しかし、鏡はいっこうに検索しようとしません。
女王様、少し考えてからため息をつきました。それからこう言いました。
「オッケーミラーctrl+v」
「女王様、ここではあなたが一番美しい。けれども、いくつも山こした、七人の小人の家にいる白雪姫は、まだ千倍もうつくしい。」
「ふぇ?」
衝撃的な結果に変な声が出てしまいました。
それから体中の血がいっぺんに、胸むねによってきたかと思うくらいおどろいてしまいました。白雪姫がまた生きかえったということを知ったからです。
「あらら、まだ生きてるね。ねえ、白雪姫って直接会ったことはないけど不死鳥かなにかなの?」
「そんなことはないと思うけど」
「じゃあ、普通に殺しそこなったんでしょ」
「でも、ぐったりしてたわよ」
「ぐったりしてた程度じゃあ死んだかどうかなんてわからないでしょ」
「うっ、それは確かに」
「いい?女王様。殺すときは一発で仕留めないと相手は警戒してくるからね。難易度がどんどん上がってくよ」
女王様は鏡の正論に返す言葉もありません。
「そうね。今度こそは、確実にいくよう工夫しましょう」
そういって、自分の知っている魔法をつかって、一つの毒をぬった櫛をこしらえました。それから、女王さまは身なりをかえ、前とはとは違うおばあさんの姿で、七つの山をこえた七人の小人のところにいって、トントンと戸をたたいて、いいました。
「よい品物しなものがありますが、お買いになりませんか。」
白雪姫は、中からちょっと顔をだして、
「新聞の勧誘はお断りです」と言いました。
「いや、新聞ではなく雑貨なのですが」
「それでも、家に人を入れてはダメだだと言われているんです」
「でも、見るだけならかまわないでしょう」
「それは、家主に聞いてみないと」
「では、その家主はいつごろおかえりになりますか?」
「いつもバラバラの時間に帰ってくるので何時かっていうのはちょっと……」
(なんとまどろっこしい)
「もったいない、こんなにいいものがあるというのに」
おばあさんはそういって、毒のついている櫛を箱から取りだし、手のひらにのせて高くさしあげてみせました。
「まあ、たしかにきれいな櫛ですね」
(よし釣れた)
白雪姫は櫛に気をとられて、思わず戸をあけてしまいました。そして、櫛を買うことが決まった時にときに、おばあさんは、
「では、わたしがいいぐあいに髪をといてあげましょう。」といいました。
かわいそうな白雪姫は、なんの気なしに、おばあさんのいうとおりにさせました。ところが、櫛の歯が髪の毛のあいだにはいるかはいらないうちに、おそろしい毒が、姫の頭あたまにしみこんだものですから、姫はそのばで気をうしなってたおれてしまいました。
「いくら、おまえがゴキブリなみの生命力を持っていたとしても今度こそおしまいだろう。」と、決め顔でそこをでていってしまいました。
けれども、すぐ夕方になって、七人の小人がかえってきました。そして、白雪姫が、また死んだようになって、地べたにたおれているのを見て、すぐ女王様のしわざと気づきました。
そして、姫の体をしらべました。すぐに毒の櫛が見つかったのでそれを引き抜くとすぐに姫は息をふきかえしました。そして、今日のことを、すっかり小人たちに話しました。小人たちは、白雪姫にむかってもういちど、よく用心して、けっしてだれがきても、戸をあけてはいけないと、注意しました。
心のねじけた女王さまは城にかえって、鏡の前に立っていいました。
「オッケー…ミラー……はあはあ、ctrl+v」
「すいません。もう一度お願いします」
「オッケーミラー………コント…ロールブイ」
「コント、ロールVについて検索しましたが見つかりませんでした」
「ああもう、めんどくさい。鏡や、鏡、壁にかかっている鏡よ。
国中で、だれがいちばんうつくしいか、いっておくれ」
すると、鏡は、まえとおなじようにに答えました。
「女王さま、ここでは、あなたが一番美しい。けれども、いくつも山こした、七人の小人の家にいる白雪姫は、まだ千ばいもうつくしい。
」
「はあ?」
女王さまは、白雪姫の生命力の強さに腹が立ちから体中をブルブルとふるわしてくやしがりました。
「本当にすごい生命力だね。人類最強なんじゃないWわら」
と鏡は愉快そうに言いました。
そのことが女王の気を逆なでしました。
「あーたねえ。言ったとおりにしたんだから検索ぐらいさっさとしなさいよ」
「そう言われても変なところで区切るから」
女王様の八つ当たりに鏡は全く動じません。
「私だってスッといえるならそうしてるわ。でもね、こっちは七つの山越えを猛ダッシュでしているのよ。息が上がるのも当然じゃないかしら」
「それなら、体力をつければいいだけじゃない?」
また、鏡の正論に返す言葉がありません。
仕方なく白雪姫の殺害に集中することにしました。
そして、「白雪姫のやつ、どうしたって、ころさないではおくものか。たとえ、わたしの命がなくなってもそうしてやるのだ。」と、大きな声でいいました。
そう決意したやさき、鏡が口を開いてこういいました。
「決意を新たにするのはいいけどさあ、もう二回も失敗しているんでしょ。もう無理じゃない?」
「いいえ、そんなことはないわ。東洋には三度目の正直という諺があるくらいだもの次こそうまくいくわ」
「じゃあ、さあ。なんで最初から魔法使わないわけ?」
「いや、それはあなたが絞殺がいいっていうから」
「人のせいにしないでもらえるかな。こっちは魔法が使えるなんて知らないわけだし」
「……」
本日二度目の正論に女王様は黙るしかありません。
「とっ、とりあえず私は準備に取り掛かります」
それからすぐに毒リンゴの製作に取り掛かりました。それはは、見かけはいかにもうつくしくとてもおいしそうなリンゴでした。
けれども、その一きれでもたべようものなら、それこそ、たちどころに死んでしまうという、おそろしいリンゴでした。
さて、リンゴがすっかりできあがりますと、顔を黒くぬって、百姓のおかみさんのふうをして、七つの山をこして、七人の小人こびとの家へいきました。
女王様は毎日3キロのトレイルランニングを欠かさず行っておりましたので前回よりも早く山につきました。
そして、戸をトントンとたたきますと、白雪姫が窓まどから頭あたまをだして、
「七人の小人が、いけないといいましたから、わたしは、だれも中にいれるわけにはいきません。」といいました。
さすがに白雪姫も同じ轍は踏みません。
しかし、女王様も馬鹿ではありません。こう言いました。
「いいえ、家に入れていただかなくてもいいんですよ。わたしはね、いまリンゴをすててしまおうかと思っているところなんです。おまえさんにも、ひとつあげようかと思ってね」と、百姓の女はいいました。
「いいえ、わたしはどんなものでも、人からもらってはいけないのよ」と、白雪姫はことわりました。
女王様も「はいそうですか」というわけにはいきません。
「おまえさんは、毒でもはいっていると思いなさるのかね。まあ、ごらんなさい。このとおり、二つに切って半分はわたしがたべましょう。よくうれた赤い方を、おまえさんおあがりなさい。」といいました。
そのリンゴは、赤い方だけに毒どくがはいっていました。白雪姫は、百姓のおかみさんがおいしそうにたべているのを見てそのきれいなリンゴがほしくてたまらなくなりました。 それで、ついなんの気なしに手をだして、毒どくのはいっている方の半分を受けとってしまいました。けれども、一かじり口にいれるかいれないうちに、バッタリとたおれ、そのまま息がたえてしまいました。
「ついに……ついにやったわ!雪のように白く、血ちのように頬が赤く、サラサラ黒髪少女を。こんどこそ、こんどこそは、小人こびとたちだって、助けることはできない。これで私が、私の国で一番きれいな女性になった。回り道はしてしまったけどすべては計画通り。アハハ!」
女王様はその帰りの道中山中に響きわたるほどの高笑いをしながら城に帰りました。
そして、城に帰って来るやいなや鏡に問いました。
「オッケーミラーctrl+v」
すると、とうとう鏡が答えました。
「女王さま、お国でいちばん、あなたがうつくしい。」
これで、女王さまの、ねたみぶかい心もやっとしずめることができて、ほんとうにおちついた気もちになりました。
夕方になって小人たちは家にかえってきました。そして、今度もまた白雪姫が地べたにころがって、たおれているではありませんか。
もう白雪姫の口からは息一つすらしていません。かわいそうに死んでもう体がひえきってしまっているのでした。
小人たちはお姫さまを高いところにはこんでいって、なにか毒になるものはありはしないかとさがしてみたり、さまざまなことをしましたがなんの役にもたちませんでした。
みんなでかわいがっていた白雪姫は、こうしてほんとうに死んでしまって、ふたたび生きかえりませんでした。
小人たちは、白雪姫のからだを、一つの棺かんの上にのせました。そして、七人の者が、のこらずそのまわりにすわって、三日三晩泣きくらしました。それから、姫をうずめようと思いましたが、なにしろ姫はまだ生きていたそのままで、いきいきと顔色も赤く、かわいらしく、きれいなものですから、小人たちは、
「まあ見ろよ。これをあのまっ黒い土の中にうめることなんかできるものか。」そういって、外から中が見られるガラスの棺をつくり、その中に姫のからだをねかせ、その上に金文字で白雪姫という名を書き、王さまのお姫さまであるということも書きそえておきました。
それから、みんなで、棺を山の上に運び、七人のうちのひとりが、そのそばにいて番をすることになりました。すると、鳥やけだものまでがそこにやってきて白雪姫のことを泣き悲しむのでした。一番初めにきたのはフクロウで、そのつぎがカラス、最後にハトがきました。
さて、白雪姫は、ながいながいあいだ棺の中によこになっていましたが、その体はすこしもかわらず、まるで眠っているようにしか見えませんでした。
お姫さまは、まだ雪のように白く、血ちのように赤く、ブラックパールのような黒い髪の毛をしていました。
すると、ある日のこと、ひとりの王子が森の中にまよいこんで、七人の小人の家にきて、一晩とまりました。王子はふと山の上にきて、ガラスの棺に目をとめました。近くによってのぞきますと、じつにうつくしいうつくしい少女のからだがはいっています。
しばらく我をわすれて見とれていました王子は、棺の上に金文字で書いてあることばをよみました。
そして、すぐ小人たちに、
「この棺を、わたしにゆずってくれませんか。そのかわり私は、なんでもあなた方のほしいと思うものをやるから。」といわれました。
けれども、ジャックは、
「たとえわたしたちは、世界中のお金を、みんないただいても、こればかりはさしあげられません。」とお答えしました。
「自分勝手なのはわっかっているけど言わせてください。わたしは、白雪姫を見ないでは、もう生きていられない。わたしの生きているあいだは、白雪姫をうやまい、きっとそまつにはしないから。」王子おうじはおりいっておたのみになりました。
王子は必死に頼み込みましたが小人たちのこころは揺らぎません。
「わかりました。では、ありがとうございました。私はこれにて失礼します」と言って王子は、白雪姫の唇にそっとキスをしました。
すると白雪姫がかみ切った毒どくのリンゴの一きれが、のどからとびだしたものです。 まもなく、お姫さまは目をパッチリ見ひらいて、起きあがってきました。
「おやまあ、わたしは、どこにいるんでしょう。」
それをきいた王子と小人のよろこびはたとえようもありませんでした。
「ああ、白雪姫。なんと美しい人だ、よろしければ私の妻になっていただけませんか」
「あの、ありがたいお話ですがどちら様でしょうか」
それからいままであったことをお話しになりました。
そして、改めて再びプロポーズしました。
「私は、あなたが世界中のなにものよりもかわいいのです。さあ、わたしのおとうさんのお城へいっしょにいきましょう。そしてあなたは、わたしの妻なってください」
そこで、白雪姫もしょうちして、王子といっしょにお城にいきました。そして、ふたりのごこんれいは、できるだけ立派に行われるになりました。
しかし、この式には、女王さまもまねかれることになりました。女王さまは、わかい花嫁が白雪姫だとは知りませんでした。女王さまはうつくしい着物をきてしまったときに鏡の前にいってたずねました。
「オッケーミラーctrl+v」
鏡は答えていいました。
「女王さま、ここでは、あなたがいちばんうつくしい。
けれども、わかい女王さまは、千ばいもうつくしい。」
これをきいたわるい女王さまは、腹をたてまいことか、のろいのことばをつぎつぎにあびせかけました。そして、気になって気になって、どうしてよいか、わからないくらいでした。女王さまは、はじめのうちは、もうごこんれいの式しきにはいくのをやめようかと思いましたけれども、それでも、じぶんででかけていって、そのわかい女王さまを見ないでは、とても、安心できませんでした。女王さまは、まねかれたご殿てんにはいりました。そして、ふと見れば、わかい女王になる人とは白雪姫ではありませんか。女王はおそろしさで、そこに立ちすくんだまま動くことができなくなりました。
「どうして、あなたがここにいるの?」
女王様は思わず聞いてしまいました。
「それは……」
そこまで言うと白雪姫は一息ついてからこういいました。
「愛です」
「はい?」
「私が今ここにいるのは王子の愛と神の愛、その両方をいただけたからです。愛とは尊きもの、容姿の美醜にかかわらず女性を美しくするもの。そして、死という醜い世界から美しき生の世界に引き戻してくれたこの奇跡こそ…まさしく愛です」
突然の大演説に全員が黙って聞き入ってしまいました。
「それなのに、女王。あなたは愛を見ようとせず容姿の美醜にとらわれたあげく、私を殺そうとした。これは人類に愛を教えててくださった神への冒涜であります。ゆえに、鉄のスリッパの刑に処します。異論はありませんね」
その場にいた全員が下を向いて何も言いませんでした。
これは、結婚披露宴ではなく女王を処刑するための裁判だったのです。これには女王様も死ぬのだと悟りました。
そう思いあきらめかけたその時声を上げた人物が現れました。
「異議あり!」
その場にいた全員が声の主を見ます。
それは白雪姫の実の父であり王様でした。
「この裁判には全く公平性がなく、またわが国の要人に対して何たる不遜な行為か」
「しかし、父上。女王は私を殺そうとしたのですよ。それに対しては何とも思わないのですか!」
白雪姫は声を荒げます。
「思うところはあるさ。白雪、君がいきていてくれたことは本当にうれしい。しかしね、こうなったのには私にも責任があるんだ。私が政務に忙しいことを言い訳に家庭をほっといたことに原因がある。ならば、私もその罰を受けよう」
「いいえ、王よ。それには及びません、元はといえば、私の気性が災いの素。それに、殺そうとしたのも事実です。罪には罰です」
「はははっ、罪には罰か。だとしたら、君のその醜さを知りながら結婚した私もやはり罰をうけねばならん。それが一人の男としての覚悟だ」
「ああ王よ」
「ああ女王よ」
会場は王と女王をたたえる雰囲気へと変わりました。
これには白雪姫も強行して処刑するわけにもいきません。
「では、女王よ。あなたが持っているもので正直なこと言う鏡があると聞きます。それを私に渡すことよいですね」
「それで、私が許されるのであればお譲りいたします」
女王はすぐにそう答えました。
「では、父上末永くお幸せに」
そういうと、白雪姫は去っていきました。
それから王様と女王様の間には子供ができ、その国は何百年もの間繁栄しましたとさ。 めでたしめでたし。
鏡はある城の一室で新しい主を待っていた。ことの始終はすべて女王から聞いていて、了承もしていた。
最後に会ったときの女王は吹っ切れたのかとても穏やかでとても美しい人になっていた。
そう思っていると、突然、鏡がいる部屋の扉が勢いよく開いた。
(お姫様は噂で聞いていたよりもおてんばみたいだ)
「あなたが女王様が言っていた正直に質問に答えてくれる鏡ね。初めまして、わたしは白雪。よろしく」
白雪姫は素敵な笑顔を鏡に見せました。
「はじめまして、白雪姫。僕は鏡です。あなたの質問には全力で正直に答えます」
「ありがとう、鏡さん。じゃあ、さっそく質問いいかしら」
「どうぞ」と鏡はお姫様に質問するように促します。
「鏡よ鏡さん、この国で一番かわいいのは誰?」
「もちろん、白雪姫でございます」
「本当に?」
「当然、『嘘を言わない鏡』の名に懸けて」
「ありがとう、また質問させてもらうわ」
そういうと、お姫様は部屋を出ていきました。
(どうやら、嬢様と白雪姫は同じ穴の狢むじなみたいだ)
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