第2話 父と富士と新幹線(2)
大人になるにしたがって、ますます父のことを思い出すことが減っていった。どこかで生きているんだろうという程度だ。だから父が死んだという電話を受け取った時は、言われていることに全くピンとこなかった。すぐ行かなければいけないことも思い浮かばず、ただ「そうですか、」と言ったきり黙ってしまった。訃報を知らせてきたのは、父が住むアパートの隣に住む人だった。電話は日曜日の9時を過ぎた時間で、見知らぬ番号の着信に首をかしげながら私は出た。相手も初めて電話をした相手に、気弱そうな声で父の名前を言い、息子さんですよね、と確認した後話し始めた。昨晩、父が心筋梗塞で病院に運ばれたこと、自分が救急車を呼んだこと、でもすでに間に合わなかったことなどを淡々と教えてくれた。
「お通夜は明日、葬儀は明後日の予定です。なるだけ早くきていただけませんか。」と言う。
「ご家族の方の連絡先がわからず、アパートの皆も困っていまして。慎さんの手帳にあったこの番号にかけていいのか随分迷いました。でもちゃんとお伝えできてよかった。」と言う。他に連絡するご兄弟やご親戚がいらっしゃるならよろしくお願いしますとも付け加えて言った。やっと我に返った私は慌てて礼を言い、式場の住所をメモして電話を切った。
父は早くに両親、私にとっての祖父母をなくしており、兄弟もいなかった。だから私が連絡するのは母しかいなかった。
父の死を聞いた母はしばらく黙っていたが、結局式には行けないと言った。
「お父さん、私が行ったら嫌がると思うから。」
と言う。母の口から、父のことを「お父さん」とと呼ぶのを聞いて、変に懐かしい思いがした。弟はあいにく海外勤務の会社員で、連絡はしたが間に合う筈もなかった。
「悪いけど、お兄ちゃん1人で行ってきてあげて、お願い。」と母は電話口で言った。
そうして、翌日会社に事情を説明した後、教えてもらった千葉へと向かったのだった。
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