世界の旅人
望月 葉琉
プロローグ
プロローグ
高校三年生っていうのは本当に面倒臭い時期だと思う。中学の時以上に進路に慎重にならなきゃいけないし、親も先生も煩い。わたしのことなんか放っといてって思うのに、必要以上に構ってくる。正直、もううんざりって感じ。
わたしには優秀な兄貴がいた。名前は冰絽斗(ひろと)。でも去年死んだ。不幸な交通事故だった。それまでわたしは、兄貴の影に埋もれるようにして、波風立てずに生きてきたつもり。でも兄貴が死んだ途端、今までわたしには無関心だったはずの両親は、急にわたしの存在に気が付いたように態度を豹変させた。だけど、慣れてないのはバレバレ。ぎこちないっていうか、いわゆる腫れ物に触るような、ってやつ。そんなことされても、全然、嬉しくないし。
だからわたしは、これまで通り「良い子ちゃん」を演じ続けた。大学は、ほぼ合格が決まってるようなもんな、高校の付属に内部進学するって調査票には書いた。成績は問題ないし、あとは面接の時によっぽどバカやんなきゃ大丈夫なはず。他には犯罪に手を染めるとか。まぁそんな予定はない。
仲良い子とかも特にいないし、唯一の味方だった兄貴はいなくなっちゃうしで、最近は毎日がなんとなくつまんない。生き甲斐がない、って言うの? そんなこと、大人に聞かせようもんなら、「若造が、何をふざけたことを」とか怒鳴られちゃいそうだけど。
そうやって退屈な日々をそれとなく過ごしていたわたしは、その一歩先に待っている信じられないような出来事たちを、まだ知らずにいた。空飛ぶ都市の存在する、見たことも無い別世界。そこで出会う、嫌われ者の皇子さま。彼の姉姫。貴族のお嬢様。手紙屋の少年。予言の少女。彼らの存在が、そして旅の結末が、わたしに何を与えるのか。
物語の歯車が、もう既に静かに動き出していたことにさえ、この時のわたしは気が付いていなかった。
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