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望月 葉琉

プロローグ

血液アレルギー

 世の中には、食物アレルギーというものが存在する。原因食物としては鶏卵・魚卵・牛乳・海老・青魚・そば・小麦・落花生・カカオなどなど。挙げればキリがないが、いずれも症状として、軽いものでは発疹、酷ければアナフィラキシーショックを起こし、最悪の場合死に至るケースもあるという。人間にとって、決して侮れない症状の一つである。

 人間にとって、と断ったのは、ここからは人間ではない者の話になるからだ。

 人間ではない者として、ヴァンパイア――いわゆる吸血鬼はあまりにも有名であろう。世界中の様々な伝承から、吸血鬼の定義は実に曖昧で、その発祥には諸説あるが、ここではブラム・ストーカーの小説の登場人物・ドラキュラをイメージしてもらうとわかりやすいだろう。姿は人と変わらないが、人間の生き血を啜って栄養源とし、腕力は人のそれとは桁違い。不死者の王と呼ばれることさえある。

 そんな伝説上の怪物が、この現代世界にも少数とはいえひっそりと身を潜めながら生存していた。ここ日本も例外ではなく、一人の吸血鬼の少年が、食物アレルギーを抱えたことが原因で、故郷からある街に移り住んでいた。

 吸血鬼の食べ物は、言わずと知れた血液のこと。この少年は、生命の根源である血液のアレルギーなのだった。他の吸血鬼と同様に血液を摂取しようとすると、アレルギー症状を起こし、発作に苦しむ。よって、安易に血を吸えない状態にあった。いくら不死の存在とはいえ、そんな状況が長く続けば生き永らえることは難しい。そこで、吸血鬼界はこの街のある人間の家に彼を送り込んでいた。

 血液アレルギーの吸血鬼とは?

 少年はこれからどうなってしまうのか?


 これは、とある血液アレルギーの吸血鬼の、受難と救済の物語である。

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