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 気が付くと、夜宵はあのビルにいた。

 手に持っていた舞夜を殺すための武器は勿論、彼女が殺した人間も爆発したタンクローリーもない。

「今、確かに私はあの女の首を撥ねようと」

 先ほど彼女が殺したはずの朱音、恋歌、心、夜春、更には海莉が倒したマリアや凛子、天音、甘利、穂積までもが無傷の状態で立っている。

 彼女たちも夜宵の姿を捉えて困惑している様子であった。特に恋歌、心、夜春は夜宵に受けた仕打ちから警戒している。

「こ、これは……」

「動揺しているようね」

 背後から聞こえた声に振り返ると同時に、頬を殴られる。

 地面に叩きつけられた彼女を見下ろすのは、瀕死の状態であったはずの舞夜であった。

「舞夜、いつからそこにいたの?」

 マリアが彼女の姿を捉えて声をかけた。

 他の皆も夜宵の背後にいた舞夜を見て、いつの間に来ていたのかと疑問の声を上げる。

「な、何がどうなっている……」

「簡単な話。私はまたのよ。残された最後の力を手にいれた」

 瀕死にまで追い込まれた舞夜の魂の叫びによって、ダンシングナイトは最後の成長を遂げたのだ。

「”ダンシングナイト3rdWave”。時は巻き戻る! あなたがやったことは、全て巻き戻った。マリア達は死ぬ前に戻り、私とお前はこのビルで対峙した時に戻すことができた」

 巻き戻される前の記憶があるのは生きていた舞夜と夜宵だけ。

 他の皆は、何が起きたのか理解もできないのも無理はない。

 何故なら、死んでからの記憶などはないからである。

 地面に平伏していた夜宵であったが、自信を取り戻したのか笑いながらゆっくりとその体を起こす。

「時を巻き戻す……それがどうした! 無駄な足掻きだ。私は次を手にいれた。最終章の次ラストチャプター・ザ・ネクスト!」

 再び彼女だけの時間を得ようと夜宵は時を止めた。

 しかし、止めたはずの時が一瞬の内に動き出してしまった。

「無駄よ。あなたが時を止める瞬間には私が巻き戻している。つまり、あなたが何度時を止めようとも、私が巻き戻す」

 夜宵の顔に絶望の色が浮かぶ。

 舞夜はただ、何も言わずに彼女の顔を見つめた。

「殺るなら殺りなさい! 私を殺しても、あなたはこれからも戦いを強いられるに決まっている!」

 最後の最後で強気な姿勢を見せる彼女に敬意を払おうとだけ思った。

「姫島夜宵、私は最後に感謝するよ。お前のおかげで私は皆を生き返らせるこの力を手に入れた。お前が私にしたように、私もお前に感謝する」

 大きく息を吸い込んで、吐くと同時にダンシングナイトが無数の拳を突き出した。

「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラァ!!!」

 全ての怒りを込めて、舞夜は夜宵を殴り続けた。

 全身の骨が折れようとも血を噴き出しても、止まらない。

 相川舞夜は止まらない。

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