3
夜宵は舞夜に向けて歩き出した。
相手の霊が分からない彼女は用心して身構えた。
「身構えても無駄よ。私が全てを支配する。
彼女の霊が姿を現した瞬間、全てが停止した。
「今は私だけの時間。この二十秒間は誰にも邪魔はできない」
姫島夜宵の霊・”
止められた時の中で動くことができるのは彼女自身だけ。
その証拠に舞夜は夜宵に指を差したままの体勢で止まっている。
「哀れね。私を倒すと言いながら、あなたは自分が死んだことも理解できないままに終わる」
彼女の最終章が舞夜の心臓を目標に手の伸ばした瞬間、
「ウラァ!!」
止まっていたはずのダンシングナイトはカウンターパンチを繰り出す。
夜宵の頬にそれが当たり、彼女は後方へ吹き飛んだ。
「な、何!?」
動揺が走る。何故、自分だけの時間で舞夜が動けるのか。
夜宵がそのことを考えている内に彼女だけの二十秒が終わってしまった。
「そういえば、相川舞夜。あなたも時間を操るんだったわね……なるほど」
納得したように立ち上がった夜宵を見て舞夜はまだ気付いていないことに心の中で安堵する。
夜宵は二十秒間止めることができるが、彼女はその半分、十秒までしか止められない。
それをまだ知られていなければ、相手は自分と同じ時間だけ動けると勘違いして用心してくるだろう。
「あなたと同じように私も動けるみたいね。でも、私の方があなたよりも一枚上をいっている」
「笑わせてくれるわね」
夜宵はまた時を止めてくるはずだが、今は何もせずにただ真正面から走り寄って来る。
「私の
「じゃあ、試してみる?」
向かい合った二人の距離はお互いの霊が拳を交えるのにちょうどいい。
動き出したのは同時であった。
お互いの霊が雄叫びを上げながら何発も拳を突き合う。
本体である二人は微動だにせず立っているが、頬や腕にかすり傷が増えていく。切れた所から血が出ても動かない。
三十秒ほどで二人の突き合いに終わりが来る。拳同士が衝突し、衝撃波が生まれ、パワーは拮抗しているように見えたが、舞夜はその場から後方へ飛ばされる。
「
再び二十秒間は夜宵、十秒間は舞夜の時間が訪れる。
その時、夜宵は首を傾げて舞夜に笑みを向けた。
「考えてみれば、あなたは何秒動けるのかしらね?」
舞夜は悟られないように表情を保つ。
「一発で殺すには惜しい存在だから。あなたはもっと苦しめて、終わらせる」
夜宵は近くにあった工事用のセメント袋を破り、舞夜の方へ投げた。
ダンシングナイトでそれを殴ると、周囲に粉が舞って、視界が遮られる。
どこから迫って来るか警戒している内に十秒が経ってしまう。
身動きが取れなくなり、意識だけが残っている状態になってしまう。
「そう、どうやら十秒間だけのようね」
すぐ側で夜宵の声が聞こえた。
横から正面へと躍り出た彼女は、舞夜に向けて先ほどと同じ力の込もった拳を何発もお見舞いしてくる。
「これで終わりだ!」
最後の一発を打つ瞬間に時間の拘束が解けた舞夜はダンシングナイトのスピードアップでその場から離れた。
そのまま、まだ吹き抜け状態のビルの窓から隣の建物の屋上へと移った。
「あ、危なかった……骨が折れてるけど……まだ立っていられる……」
右の鎖骨と左の肋骨が一本折れてしまった。
ダンシングナイトの拳以上の威力を持ったそれを受けたのと同じだ。
「なるほど。止めた時間の中を動けるだけじゃなくて、自分にかかる時間を早くすることもできるわけね」
彼女はまだ余裕の色を見せて、右手の人差し指で示すと高らかに宣言した。
「次が最終ラウンドよ」
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