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皆が東王市にある建設中にあるビルを目指している中、舞夜は既に”敵”と対峙していた。
ファミレスに集まるように連絡を受けて、東王市に向かおうとしていた彼女の前に一人の少女が立ちはだかる。
「相川舞夜って、あんたよね?」
片目を隠している銀髪に舞夜と同じほどの身長。制服は東王市のものであった。
「誰、あなた?」
「一応名乗っておくわ。
少女は舞夜が東王市に向かおうとする道中の公園で現れた。
彼女は、三日前の真冬を襲った人間に関わりのある人物だと舞夜は予想する。
「悪いけど、私行くとこがあるのよ。見逃してもらえないかしら?」
「ふざけるな。あなたにはここで死んでもらう」
全部知っていて当然か、と舞夜はダンシングナイトを出現させて自身の移動速度を加速させた。
一瞬の内に間合いを詰めて、諒花の頰を殴る。
しかし、いくら早いとはいえ、彼女は防御の姿勢すら取らずに攻撃を受けた。敢えて避けなかったようにも殴った舞夜本人には思えた。
数メートルは吹き飛んだところで地面に倒れた彼女を見て、自信を持って出てきたように見えたのは、ただのハッタリだったのかと思った。
呆気なく倒れた彼女であったが、やがて、ゆっくりと体を起こそうとしている。
「あんた、何のつもり? そんなので私を相手するつもりだったの? 言っとくけど、真冬を襲った犯人だとしたら、逆にあんたを殺すかもしれないわよ」
「私に血を出させた時点で終わっているんだよ。自分の力を慢心しているな」
鼻と口から血流す彼女は別に怒っている様子でもなく、ただ舞夜のことを見ていた。
その時、舞夜は彼女を殴った手から激痛を覚えた。
彼女の手の甲から何か棘のようなものが貫通している。
「ぐっ……これは!?」
諒花の足元にはドクドクと溢れる血だまりができていた。
そんなに血が溢れるほどのダメージではなかったように舞夜は思ったが、考えを整理するよりも前に諒花が動き出していた。
相手の手に付着していた血がまるで生き物ように動き出し、拳銃へと変わる。
迷わずに舞夜へ向けてその銃を発砲してきた。
「ダンシングナイト、スローモーション」
瞬時にダンシングナイトの力で銃弾の動きを遅くする。
手で触れることはせずにその弾丸をよく観察したが、ただの銃弾にしか見えない。血が急に銃へと変わり、弾丸を撃つこともできる本物になった。
気が付くと諒花の鼻と口の血が止まっており、殴られた頬も完治しているように思えた。
「何なの、あいつの能力は」
舞夜は独り言のように呟く。
諒花は制服の懐から赤い袋を取り出した。
それは輸血パック。口の部分を切り、舞夜の方へ向けて投げる。
空中に舞った血が、一瞬にして無数の刃物に変わった。
「ダンシングナイト、スピードアップ」
舞夜は自身の動きを加速して後方へ飛んだ。
しかし、刃物の数が多く、数本は彼女に接触し、切り傷を負わせた。
「いつまで避けられるかしら?」
彼女は再び別の輸血パックを取り出し、地面に向けて流した。
すると、流れている血が今度は蛇へと変わる。
ダンシングナイトの拳で蛇を撃退するが、牙が拳に刺さる。
即座にその牙を抜いて、刺さった場所にハンカチを巻いた。
「分かったわよ。あんたの能力が」
諒花の霊の力、まだ推測に過ぎないが、血液を武器や生物にまで変えられる。
どの程度のものまで変えられるのかは分からないが、恐ろしい能力だ。
「気付いたところで私が優位なのは変わりない。相川舞夜、あなたの能力も強力だし、殺すには惜しいけど死んでもらうわ」
彼女は再び輸血パックを取り出して血をばら撒く。
舞夜の足には先ほど地面に流れていた血で作られた棘が刺さり、身動きができなくなる。
新しく流れてきた血が次はマグマへと変わり、地面が焼け始めている。
「ダメ押しよ」
再び手元の血で拳銃を作り、数発の弾丸を発射した。
足に刺さった棘を抜いて、舞夜はその場に転んだ。
迫り来る血によって作られたマグマを横に転がって回避する。
しかし、転がった先にはまた蛇がいた。連続的な攻撃にさすがの彼女も追いつけていない。
余裕を見せる諒花を見て、舞夜は”自分の力を慢心している”と言われたことが当たっていたと思う。
時間を操作できる自分の力なら勝手に誰にも負けないと。
だが、時間を操作できるというのを冷静に考え直した結果、勝利の糸口を見つけた。
「余裕を見せたわね、あんた。あんたこそ力を慢心している。ダンシングナイト、スピードアップ」
彼女は時間を加速させる。
それは自分のではなく、床にばら撒かれた血に向けて。
諒花が異変に気が付き始めた時には既に始まっていた。
血が乾いてきている。さらには干上がってその場からなくなってしまうではないか。
「こ、これはどういうこと!?」
「あんたの能力は血がなくなれば意味もなくなる。時間経過で全て乾かしてやったわ」
新しく輸血パックを取り出そうとしてみせたが、もう予備がないのか、ナイフを取り出して自身の手のひらを切ってみせた。
「無駄よ。その傷もすぐに血が乾いて治る」
時間はさらに進み、彼女の傷口は塞がっていき、血も乾いていく。
「あんたは確かに強い。でも、私はもっと強い!」
次は時間を完全に停止させた。
ダンシングナイト2nd Waveの能力で一〇秒間は時間が止められるのだ。
その間に拳が当たる範囲まで近寄り、諒花に向けて何発もの拳を放つ。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラアァァァ!!」
時間が動き出すと共に諒花は先ほど以上に吹き飛ばされ、腕も足も折れてしまっていた。
まだ生きてはいるが、殺すことは目的ではない。
「終わったわね。早く皆の所へ――」
集合場所に向かおうとした時、携帯端末に新着のメッセージが入った。
それは凛子からで、内容は指紋の主が黒川海莉という東王高校の女子で、その黒川から東王市の建設中ビルにいるというものだったと。
舞夜は時間を進めて傷を治そうとしたが、それは体の老化を進める上に今以上に体力を消耗する。
この先の戦いに備えて今は目立たないよう傷口を隠して駅に向かうことにした。
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