7
どれくらいの時間が経っただろうか。
重い瞼を開けて、目を覚ました甘利は屋上に座らされていた。
何があったのか理解できていない彼女は、慌てて立ち上がろうとするが、体を縄で縛られていることに気が付く。
「気が付いた? 甘利ちゃん」
背後から聞こえるその声は先ほどまで血まみれであった穂積であったが、見た所傷は完治しており、意識もしっかりしているのが確認できて一安心する。
彼女もまた縄で縛られており、同じく身動きが取れない。
「さて、あなた達には色々と話してもらうわよ」
二人の前に立っているのは黒いスーツの女性。
その後ろには恋歌と朱音、そして清蘭女子校の制服を着た女子が立っている。
「八方塞りってことね」
「ここはおとなしくしてたほうが良さそう」
諦めた二人はおとなしく、連絡を受けてここまで来た凛子の質問に応じることにした。
例の”あの人”というのが誰なのかに関する質問を凛子がしている最中、恋歌はその場を離れて、屋上への入り口で待っていた紬の元に歩いて行く。
しばらくはお互いに何も言わなかったが、やがて恋歌は口を開いた。
「あのね、紬。今回のことなんだけど——」
待って、と話している彼女を止めた。
「言わなくていいわ。恋歌、あなたがやっていたことは、多分今の私じゃ理解できない。だから、また教えてほしい時に聞くことにした」
予想外の言葉に恋歌は呆然とした。
あの時、何が起きているか説明をするよう取り乱していた紬を思い出すと、今の平然としている彼女の方がいつも通りだ。
「ありがとう。それと、ごめんなさい……」
「謝る必要なんてないわ、守ってくれたじゃない。ただ、恋歌……死なないで。今日みたいな訳の分からないことがまだあるんでしょう? なら、死なないで」
ただ頷くことしかできなかった。
凛子の側に戻った恋歌は、紬のことを聞かれたが、問題ないと伝える。
「なら大丈夫そうね。こっちはこれといった進展は望めないわ。あなた達と同じで、枕元に現れた誰かが、霊の力を与えたようね」
「それで、この二人はどうするんですか?」
朱音が甘利と穂積の二人を見やる。
「あなた達に任せるわ。ここは恋歌と朱音がいる学校。そこで問題を起こしたんだし、同じ霊使いのあなた達に決める権利がある」
恋歌と朱音は顔を見合わせ、彼女達の処遇を考えた。
やがて、恋歌が二人と目線を合わせて話す。
「あなた達を殺したり、傷つけたりはしない。ただ、これだけは約束して。もう二度と、無関係な人間に対してその力を使わないこと。約束できる?」
穂積は何も言うことなく了承し、甘利は仕方なくといった様子であったが、何も言わずに首を縦に振る。
「なら、これで解決のようね。校舎の壊れた部分やケガをしていた生徒達も喜里川さんが元通りにしてくれたから、誰も気付かないでしょう」
凛子は重力を操って飛び、マリアを連れてその場を後にした。
二人の縄を解き、教室に戻るように指示をする。
「本当に私達がもう何もしないと思っているの?」
「やりたいなら、またやればいい。ただ、もし私の大切な人を巻き込めば、今度こそは本当に撃ってみせる」
脅しでもなんでもない、本気で言う彼女の気迫に甘利はそれ以上何も言わなかった。
「あんた、穂積とかいったな? 本当に何も知らないのか?」
「”あの人”のことは何も知りません。私も甘利ちゃんも寝てる時に枕元に立ってた男の人の夢を見てから、この力を使えるようになりました。ただ、先輩達二人をこの力で倒すようには言われましたけど」
恐らくそれは夢ではなく現実で、恋歌と朱音に力を与えたのと同じ人間のはず。だから二人を知っているのだろう。
ただ、恋歌と朱音には霊使いを倒せなどとは言わなかった。
さらに敵の狙いが分からなくなってきたことに皆は頭を抱えるばかりであった。
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