5
「どういうことか説明して! 恋歌、一体どうなってるの!?」
誰もいない場所を求めて三人が行き着いたのは、家庭科室であった。
「ごめん、話せない。私にも詳しくは分からないから」
「嘘よ! あの二年は、あんた達のことを知ってた。じゃあ、夜ノ森、あんたが説明してよ!」
「説明する義理がない。お前を連れて来たのは、鬼怒山と仲が良いからってだけだ」
その言葉に呆れた紬は近くの椅子に重い腰を下ろして項垂れる。
彼女に全てを説明しても、受け入れられないだろう。
それに今はこの状況をどうにかする方が先だ。
「あの敵の力。たくさんの銃口がこっちを向いてた。最近のニュースになってたやつじゃない?」
「ああ、恐らくはな。ただ、扱いにはまだ慣れていない感じだった」
撃つのが少し遅れていたところを見ると、敵はまだ能力を手にして長くないというのがわかる。
朱音が室内を見回した後、
「ここは家庭科室だったな?」
唐突に恋歌へと質問をした。それがどうかしたのか問う彼女に答えることなく、
隣接してる準備室へ入り、朱音は大量の“小麦粉”を持ってきた。
「これで足りるかは分からないけど、ここに奴らをおびき寄せる。ただ、死人が出る可能性もあるから、そこが問題だ」
朱音は座っていた紬も呼びかけて、自身の中にある考えを話し始めた。
「ちょっと! どこ探してんの! 私はこっちにいるわよ!」
廊下をさまよう生徒達に向けて紬が大声で叫ぶ。
彼女も敵として認識されているようで、呼ばれた生徒達は走って彼女を捕まえようとしてくる。
中学時代は陸上部で真面目な部員として過ごしていた紬の足は、この三年まともに走っていなかった割には十分動いてくれる。
朱音が彼女に与えた役割はこの家庭科室から生徒達を離れさせること。
かつ、朱音と恋歌は家庭科室にいるということを相手に知らせる。
「後の二人は家庭科室にいるわよ! あんた達のボスにそう伝えなさい!」
彼女の言葉は操られている生徒を通じて甘利の耳に届く。
「家庭科室か。じゃ、行ってこようかな」
「待ちなさい、何か罠かもしれないでしょ」
一人で向かおうとする穂積に向けて、甘利は注意を促した。
しかし、楽観主義の彼女はその言葉に耳を貸さず、教室を出て行く際に、
「次こそ蜂の巣にしてみせるから」
とだけ言い残した。
家庭科室の周りには誰もいない。
ただ、穂積だけが静かな廊下を歩いている。
慎重に家庭科室の扉を開けてみせたが、中には誰もいない。
彼女の霊・”バトルドレス”は無数の銃弾を放つことができる。
それも一つや二つではなく、器用に口径まで調節することができる。
この一週間の銃撃事件も彼女が霊の力を把握する試験行為であり、銃の口径を分けたのも練習ついでに警察の捜査を撹乱する為であった。
「誰もいないな。先輩方ー! どこにいるんですかー!」
「大声出すなっつうの。ここにいる」
机の下からひょっこりと現れたのは朱音であった。
「ああ、いたいた! おとなしく蜂の巣になってくださいね」
「馬鹿か。そんな要望、猿でも拒否する」
彼女は動じることなく、穂積に質問をする。
「お前達はなぜ私と鬼怒山を襲う? 誰の命令だ」
「それは言えませんね。”あの人”のことは何も知りませんから」
「出たな、”あの人”とやら。まあ、所詮はただの下っ端。使いっ走りなんだろ、お前達も?」
そんな挑発には乗らないと彼女は飄々とした態度であった。
いよいよ、朱音に向けてバトルドレスによる銃弾を放とうとした彼女。
「今すぐここから離れた方がいいと思うぞ。できれば殺したくはないからな」
「馬鹿はどっちですか? あなたが死ぬんですよ!」
そこで朱音が机に何かを転がした。
小さな何か、それはベル・スターの弾丸であった。
朱音はその場から素早く準備室の方へと飛び込む。
次の瞬間、バトルドレスによる銃の火花とベル・スターの弾丸が起爆装置となり、家庭科室で爆発が起きた。
轟音と激しい揺れは学校全体に伝わった。
「な、何の音なの!?」
甘利は急いで音の聞こえた場所の近くにいた生徒の視界から様子を伺う。
廊下には火の粉が舞い、誰かが倒れている。
近寄ってみると穂積の姿があり、ガラス片などが身体中に刺さって血だらけであった。
しかし、操っている生徒の手で脈を確認し、生きていることを確認した。
「そこからすぐに運んできなさい! 今すぐに!」
操っている生徒を使い、彼女を保健室にまで運ばせる。
甘利も急いで保健室へと向かう。
状況を掴めていない朱音と恋歌は準備室から顔を出した。
「何とか上手くいったみたいだな。とにかく、凛子さんに連絡しとこう」
朱音はこの家庭科室に開けた小麦粉を大量にばら撒いていた。
更に穂積の霊が出す銃の火花とマジック・ボマーの力で爆発物へと変化していたベル・スターの弾丸が爆発したことが火種となり、『粉塵爆発』を起こしたのだ。
「まったく、めちゃくちゃなこと考えるわね。それにしても、あいつの姿がないわよ? まさか、粉塵爆発で微塵も残らないなんてことはないでしょ」
恋歌が辺りを見渡すと、引きずられて行く血の跡が見つかった。
そこから、恐らく操られた生徒がケガをした彼女を連れて行ったのだろうと推測できる。
「急ぎましょう。まだもう一人が残ってる」
「と言ってももう一人ってのは、本体にそれほどのパワーはないんだろ? なら、あとは時間の問題だ」
朱音は凛子への連絡を済ませて、恋歌の後をついていく。
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