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「あんた達、一体恋歌に何をするつもり!」

 男子生徒数人に取り押さえられる形で紬は、取り上げられた自分の端末から恋歌に電話をしていた女子に声を上げる。

 二人の女子生徒がいて、どちらも制服のリボンから二年であることが分かった。

「簡単なことです。あなたを囮におびき寄せる。そこで彼女は命を落とします」

 紬の端末を机に置いて、彼女は立ち上がる。ここは恋歌のクラスであった。

 恋歌を襲う他の生徒と同じにならなかったことから、拘束状態に置かれている。

 それは、この女子生徒が持つ能力の弱点を現しているのだ。

「何で恋歌を襲うのかわからないけど、あの子は強い。簡単に負けるなんてありえないんだから」

「彼女を始末するのは私ではありませんから。ここにいる穂積ほづみがやります」

「ちょっと、名前言ってもいいの?」

「構いません。この人も含めて始末します。残りの人間も操られている記憶は残りませんし」

 およそ一週間ほどで身につけた能力の内容をしっかりと把握している彼女に感心を見せる穂積と呼ばれた女子生徒。

「じゃあ、私はあの二人が来ていないか見回ってくるね、甘利あまりちゃん」

 彼女は教室の扉を開けて廊下を歩いていった。

「穂積に甘利か……あんたらの名前、覚えたからな」

「別に覚えなくてもいいですよ、先輩。あなたも後少しの命ですから」

 床に抑えられたまま彼女を睨みつける。

 冷酷な目をした甘利を見ていると自分と近い年齢の少女とは思い難い。

 その時、窓際に立つ一人の生徒が朱音を見つけたという報告をしてきた。

 グラウンドを走ってくる彼女の姿を見つけて、外にも見張りでいた生徒が後を追う。

「捕まえてここの教室まで連れてきなさい。目の前で確実に命を絶ちます」

 数分後、朱音は両腕を後ろに組まされた状態で教室へと連れてこられた。

「無様ですね。特攻してきたのかと思えば呆気なく捕まって。それにもう一人は逃げたのかしら?」

「さあね。私はあいつとパートナーなわけじゃないし。一緒に逃げたのは途中までだからね」

「ちょっと夜ノ森、恋歌のこと本当に知らないの!」

 隣で拘束されている紬に気がついた朱音は、さっき逃げている途中で恋歌に声をかけていた女子生徒であったことを思い出す。

「悪いが知らないね。それよりも、もうちょっと前に進ませてくれよ。ここの床、何か倒したのか水みたいなので濡れててさあ、スカート濡れると気持ち悪いじゃん」

 言うが早いか、自分の腕を拘束している生徒を引っ張るかの如くゆっくりと前に進んだ。すぐに甘利が制止させる。

「ふざけてるの? いいから、早く跪きなさい」

 彼女の問いに朱音は答える様子もなく、お互いを睨みあったままであった。

 しかし、次の瞬間、朱音は素早く前傾姿勢を取った。

 すると、彼女の背中から数発の弾丸が発射される。

「な、何!?」

 取り乱した甘利に向けて飛んで行くのは、ベル・スターの弾丸であった。


 朱音が体育倉庫を飛び出す前、恋歌がある提案をした。

「私のベル・スターの弾丸は貼り付けることも出来る。私の意思でいつでも貼り付けられた場所から発射できる」

「つまり、私の背中に弾丸を貼り付けておいて、わざと敵に近づいていけってことか?」

「操られてる人間には弾丸の存在もわからないでしょうし、あなたが囮になって敵の所まで連れて行かれることで敵の場所がわかれば、私はその敵が見える場所まで移動する」


 甘利へと真っ直ぐに向かうベル・スターの弾丸は確実に彼女を仕留める動きであった。

 朱音はそこで勝利を確信していた。

 しかし、弾丸が彼女に着弾するであろう直前で砕かれてしまう。

 突然のことに何が起きたのかを理解できていない朱音。

 そもそも霊の力を持たない紬は朱音がなぜ前傾姿勢を取ったのかすら理解できない。

「いやー危なかったねえ。私が戻ってこなかったら、甘利ちゃん死んでたよー?」 

 朱音と甘利の間にいたその人物は、先程教室を出ていった穂積と呼ばれる女子生徒である。

「た、助かりました……。一応お礼は言っておきます」

「もう一人いたのか」

 もそのことに動揺が隠せずにいた。穂積は朱音を拘束している生徒に彼女を床に寝かせるように命令する。

「ああ、先輩いたんですねー。私は穂積といいます。何か物音が聞こえたんで急いで戻ってきたら、危なそうだったので」

 敵とは思えないほどおしゃべりな彼女に不審感を持つ朱音であったが、相手はそんなことを気にしている様子もない。

「結構危なかったですよね。でも、私が来たからにはもう何をしても無意味です。いいんですかー、鬼怒山先輩! 二人共死んじゃうことになりますけどー!」

 どこにいるかも分かっていない恋歌に向けて大声で訴える穂積であったが、反応はない。


「二人いるなんて聞いてないわよ。しかも、新しく出て来たあいつ、ちょっとしか見えなかったけど私の弾丸に別の弾丸をぶつけてた。つまり、私と似たような銃を扱う霊ということかしら?」

 恋歌は教室の直ぐ側にまで来ており、廊下の角から覗き込むようにして、駆けつけた穂積という生徒を見ていた。

 しかし、二人目の敵がどのような力を持っているか正確に分からないまま突撃するのは危険だ。

 だが、そんな彼女の慎重さとは裏腹な声が聞こえてきた。

「もう慎重に動くなんてやってられねえ! 鬼怒山、行くぞ! そこのお前も何かに捕まっとけ!」

 それは朱音の声で、次の瞬間爆発する音が聞こえた。同時に何かが落ちていく音もする。

 教室の扉を開けると、床に大きな穴が空いており、数名の生徒は壁の側に倒れていた。

「あのバカ! いくら何でもやりすぎでしょ!」

 穴を覗くと、朱音と二人の敵、紬と彼女を抑えていた男子数名が倒れていた。

「床を爆破して一階下に降りるなんて強引な先輩ですねー」

「あんたらに接近できればもう待ってやる必要もないしな」

 朱音を抑えていた生徒たちも吹き飛ばされていたが、気絶しているだけのようであった。

「甘く見ないで下さい。プロパガンダの能力はこの学校全てに影響している。すぐにでも私を助けにここまで来ます」

「言ったろ、待ってやる必要もないってな」

 恋歌が降り立つと同時に朱音は前方に走り出した。恋歌はベル・スターの弾丸を惜しみなく全て撃ち放つ。

「だから、無理ですってば、先輩」

 穂積は何ともない表情を浮かべているのが気にかかる恋歌。

 まだ警戒するべきであった。

 彼女の背後から無数の銃口がこちらを向いていた。

「マズい!!」

 それに気がついた朱音は、恋歌と紬の体をマジック・ボマーに掴ませて教室の窓を破った。

 教室から無数の弾丸が廊下に向けて放たれる。

 全てが頭上を通過していくのを眺めている間もなく、朱音は恋歌と紬の手を取って立ち上がらせた。

「ああ、ちょっと撃つのが遅かったかな」

「すぐに他の生徒を向かわせて捕まえます」

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