2
荒波高校・三-C。それは恋歌がいるクラスである。
彼女の通う荒波高校は荒くれ者ばかりであった。
警察の世話になるのが常で、教室内は授業の出来るような雰囲気ではない。
しかし、教師は黒板の前で僅かに席へ着いている生徒の為に授業をしていた。恋歌もその一人である。
本来なら彼女は別の学校へと進学するつもりでいた。
ただ、受験の日に高熱で倒れ、試験を受けることが出来ず、他の学校を考えていなかった彼女に残されたのがここなのだ。
転入を考えたが、彼女は逆にここに留まった。
ここにはこれからも警察の世話になるであろう人物が山ほどいる。
いずれ自分が捕まえる立場になった時、彼ら彼女らを覚えている自分がいれば、検挙できる確率が更に上がるだろうと思い残っているのだ。
と言うのは、当初の理由である。
今は別に理由があるのだ。
「恋歌は真面目だねえ。授業もちゃんと受けて。見た目はアレとして」
「余計なお世話よ。あなたも勉強しないと、将来あたしが逮捕する羽目になるからちゃんとしてよね」
彼女の前の席に座っているのは、この学校で唯一出来た友人と呼べる、
以前、心に紹介した友人である。
紬も本来ならば恋歌の嫌う存在に過ぎなかったはずなのだが、そうならなかったのはこの学校で恋歌を救い出してくれたからだ。
「ま、恋歌はさ、あたしから言わせたら警察よりもペットショップの店員やってる方が似合ってるかなとか思うけど」
「何でそのチョイスなの。別に動物好きだけど。それって、紬が私から安くでペットを買いたいだけでしょ?」
正解、と陽気に答える彼女にあるのは、あの時の勇敢さや正義ではなく一人の少女らしさだけである。
「そういやさあ、恋歌って夜ノ森と仲良かったの? この前一緒にいたけど」
「見てたの!? 別に仲良くなんてないから! たまたま会っただけ!」
動揺する彼女を見て、紬は面白いものを見つめるかのように笑っていた。
「まあいいけどさ。心ちゃんといい、あたし以外に友達できるなんて成長したねえ」
「あんたは保護者か。そういえば、今度心ちゃんと出かけるけど、紬も行くでしょ?」
「もちろん。断る理由なんてないね。あの子可愛いし、見てて癒されるし」
恋歌に噂されたからなのか、朱音はくしゃみをした。
教室ではなく、中庭のベンチで一人昼寝でもしようかと思っていた時。
「誰か噂してるのか。ロクなもんじゃないだろうけど」
夜ノ森朱音も元は別の学校を志願していた。
しかし、彼女は勉強しても届かない壁に挑戦してしまったばかりに今ここにいる。
朱音には姉がいるのだが、成績も運動もそつなくやり遂げてしまう彼女に対し、妹である自分は出来損ないというイメージを付けられてしまった。
両親も姉のことばかり構い、彼女には興味をそれほど示さなかった。
だが、それで姉を疎むようなことを朱音はしなかった。
それは彼女のプライドが許さないのもあるが、姉が彼女のことを唯一認めてくれていたからだ。
受験に失敗して途方にくれていた時、姉は朱音に言った。
「朱音は自分の生き方をしなさい。私なんかの後を追う必要なんてどこにもないのよ。あなたは努力ができている。あとは結果に繋げるだけよ」
そこで、彼女はまだ受験生の受け入れをしていたこの荒波高校に来た。
しかし、ここでは自分は誰とも関わりあいたくない。彼女の中には信念が会った。
姉のように立派になりたい。彼女とはまた別の方法で。
その様子を見下ろしていた者がいる。
「あれが夜ノ森朱音ね」
「この力を使って、始末しろと言われたけど」
「問題ないよ。この一週間と少しで十分に練習する時間はあったんだし」
制服姿の女子生徒二人。
そこは立ち入り禁止とされている使われなくなった机や椅子が置かれた場所であったが、たまたま通りかかったであろう教師が二人の姿を見つけた。
「君たち、そこは立ち入り禁止だぞ。早く戻りなさい」
注意に来た教師を一人が見つめる。
すると、まるで命令されたかのように立ち止まってしまう。
「ちょうどいい、放送であいつともう一人呼んでほしいのがいる。すぐに呼べ」
はい、とその教師は放送室へとゆっくり歩いて行く。
「流石に彼女達も一般人を相手に戦うことはできないでしょう。嬲り殺しにするか、私達が直接手を下せばいい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます