第10話 ライブドローイング

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 新たな仲間、朽木心が加わったことで皆と顔を合わせる日のこと。今日は舞夜の家に集まっており、その日は雨であった。

「く、朽木心……です……。よろしくお願いします……」

 恋歌の隣に座り、ほぼその背後に隠れながら挨拶をする小柄な心を見て、周りの皆は愛くるしい小動物を眺めている気分であった。

「ま、偶然にしてもお手柄じゃん。恋歌もやるときはやるって感じよね」

「当たり前でしょ、舞夜。この私ができないわけないじゃない」

 胸を張ってみせる恋歌の背後で心は困った様な顔をしている。

「朽木さんも加わったことだし、後は一人。残されたのは“色海いろうみ市”ね」

「“変態市”とも呼ばれてますけどね」

 舞夜の言葉にマリアが下品だと横から恥ずかし気に注意する。

「何でそんな呼ばれ方を?」

「凛子さん行ったことないんですか? 行ってみれば分かると思いますけど、あそこには芸術家が多いんですよ」

 説明している舞夜も数えるほどにしか行ったことがない場所だが、話によると市全体がまるでキャンバスのような場所になっている。

「歩く人間全員ってわけじゃないですけど、ほぼ奇抜な格好はしてますね」

「なら、霊を扱う者がいてもおかしくはないな」

 凛子は今度の土日に予定が空いているか全員に問う。

 マリアは習い事が、恋歌と心は二人で出かけると言い、朱音も私用があると言う。

 残ったのは舞夜と天音だけであった。

「まあ、二人ぐらいがちょうどいい。ついてきてくれる?」

 二人とも問題ないようで、凛子は今度の土曜日に行くことを決めた。

「ところで、舞夜の家って広いね。兄弟とかいるの?」

 マリアがリビングを見渡して言う。

「いやー、マリアの家の方が広いでしょ。私一人っ子で、お母さんと二人暮らしだよ」

「え? そうだったんだ。ごめんね、何も知らないで」

 謝るマリアに対し、舞夜はなんでもないように笑っている。

「大丈夫だって。私が小さい頃にお父さんは死んだって聞かされてる。お母さんはやっぱりその話したがらないし、詳しくは分からないけど」

 話している彼女の背後にある棚には写真立てがいくつか置かれているが、そこには母と思しき女性と舞夜が一緒に写っているものばかりで父親との写真はない。

「良かったら私の部屋も見てく?」

 舞夜の言葉に皆は賛成した。

「後は若い者同士で楽しんで。私は仕事があるから帰るわ」

 凛子を見送ってから舞夜を含む六人は彼女の部屋へと向かう。

「あ、この漫画私も読んでるやつ!」

「このポスターのバンド初めて見たなあ」

「舞夜、パソコンとかも使うんだね」

「か、可愛いぬいぐるみ……」

「ゲームでもさせてもらうか」

 五人は全くもって別々の反応を見せる。

「あんた達、くつろぎすぎでしょ」

 しかし、まるで自分の部屋かのように好きなことを始める皆を見て、舞夜が嫌な気持ちになることはない。

 この家に招くのは佳苗ぐらいであったが、久々の客人に部屋にも色がついたような雰囲気だ。

 各々がくつろぐ中、玄関から声が聞こえた。

 舞夜が玄関に行くと、買い物袋を置いている母の姿があった。

「お母さん、今日は早いね」

「うーん、仕事が早く終わったのよ。だから、久々に料理しようと思って買いすぎちゃった」

 黒い髪を伸ばし、艶のある肌をした彼女こそ舞夜の母である。

 二階が騒がしいので、母は誰か来ていることに気付いた。

「ちょっと友達が来てるんだよね」

「あら、珍しい。久しぶりに誰か家に連れて来たのね」

 一人だけ部屋を出て行った舞夜が気になり、マリアが階段を降りて来た。

 すると玄関にいる母と目が合う。

「初めまして。私、舞夜さんの友人で喜里川マリアと申します」

「あら、礼儀正しくて可愛い子ね。舞夜の母です。その制服って清蘭女子高校のよね? さすがにしっかりしてるわ」

 その日の夕飯を食べて行ってほしいと舞夜の母が言い、全員で手伝うことになり、楽しい夕飯となった。

 皆が帰った後、母は言った。

「舞夜、あんまり友達作るのが得意じゃないと思ってたのに、あんなに良い友達がたくさんいたのね」

「まあね。私もやるときはやるんだよ」

 その返答に笑う母と家に戻った。

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