6
グラウンドの中央はより一層冷気が漂い、生徒や教師が各所で氷漬けにされたままの姿でいる。
「心ちゃん!」
今にも凍りつきそうな冷気が竜巻のようにグラウンドを支配する。
「どうして……私にひどいことをするの……どうして……」
一人で何かを呟いている彼女の目はただ虚ろなものであった。
「鬼怒山、私が援護するから行け!」
朱音のマジック・ボマーは爆発だけでなく炎を操ることもできる。
彼女は恋歌の周囲に火の輪を作り、防護壁とした。
「心ちゃん! 私よ! 聞こえる!?」
恋歌は大声で叫ぶが反応はない。
「恋歌、もっと近くに行きましょう!」
凛子が重力を操作して、空中を進んでいく。
しかし、心のすぐ側には見えない壁のようなものがあり、それ以上近づくことができない。
その際、背後から驚愕する声が聞こえる。朱音の体が凍り始めていたのだ。
「朱音! あなたも早く自分の体に炎を纏いなさい!」
「あたしのことはいいから! 二人とも早く、何とかしてくれ!」
彼女は徐々に凍りついていく。
「恋歌、悪いけど、私もここまでのようだわ」
凛子の方に目をやると彼女の体もまた凍り始めている。
力を失った二人は地面に落ちる。
恋歌もいつ同じ状況に陥るか分からない。
「心ちゃん、聞いて! あなたは一人じゃないでしょ! 私が側にいるから!」
見えないバリアのようなものを手で叩いて訴えかける。
ベル・スターの銃弾を何発撃っても壊れそうにない。
「このまま終わり……? 全部凍って終わり……? そんなことさせない」
何度も必死に呼びかける。
昨日の時点で彼女の変化をもっと調べておけば、こんなことにはならなかった。
彼女を学校に行かせずにいれば、少なくとも今日こんなことになることもなかった。
寒さで意識が朦朧としてきた恋歌は、その見えないバリアにもたれかかるようにして倒れる。
その時、彼女は地面にバリアの隙間を見つけた。
ここが最後の望みだと思い、ベル・スターの弾丸に想いをこめる。
銃の弾丸はいくつか種類があるのを恋歌は知っていた。
その中には戦いには向かない弾があることを覚えていた。
「この弾には私の想いをこめる。撃たれた相手を傷つけるのではなく、直接語りかける」
一発だけ弾丸が放たれる。
それが心の胸に命中した。
『心ちゃん、聞こえる? どうして泣いているの?』
恋歌の声が響く。
「この声は……」
『あなたに直接語りかけることができる、私の力。ねえ、もう泣かないで、今日も一緒に話そう』
「もう無理です……。私、とんでもないことを……」
『今ならまだ戻れる。あなたは強い。だから、きっと何度でも立ち向かえる』
恋歌の呼びかけを聞いた心の目に少しずつだが光が戻ってくるのを覚えた。
『泣いている顔も可愛いけど、私は見たくない。だから、私があなたを守ってみせる。何があってもね』
「守られるだけじゃなくて、強くなりたい」
『なら、それでいい。二人で強くなろう』
誰かが自分の名前を呼んでいる気がした。重い瞼をゆっくり開けると、曇っていた空が晴天へと変わっていた。
「よ、良かった。大丈夫ですか?」
心配した声で呼びかけるのは心で、恋歌は彼女の膝の上に頭を置いていた。
「心ちゃん、もう大丈夫なの?」
「ごめんなさい……私、恋歌さんだけじゃなくて、酷いことを……」
涙を流す彼女の頬に手を添える。
「いいんだよ。辛かったよね。誰にも言えなくて、ずっと辛かったよね……」
凍っていた学校は元通りになっていた。氷が溶けて気絶していた生徒や教師も徐々に意識を取り戻し始めている。
その日は岬川高校に記者などの報道陣が押し寄せる事態となり、しばらくは休校となるらしい。
ただ、休みの日にも関わらず心と恋歌はあのいじめのグループを呼び出した。
正確には恋歌が物申したくて呼び出しただけであるが。
「な、何の用だよ」
あの日以来、心に触れて凍らされたリーダー格の女子とその取り巻きは彼女に怯えていた。
「もう分かってると思うけどさあ、今後もし、この子に手を出すようなことがあったら、私があんた達にその何倍も仕返ししてやるから」
「あの、もういいですよ恋歌さん」
「い、言われなくても! そんな不気味な奴にもう手出しなんかしねえよ……」
女子達は逃げるようにして去っていった。
軽くため息を吐いて、打って変わった恋歌は心にある提案をした。
「今日は前に言ってた私の友達も含めてカラオケに行こうと思うんだけど、心ちゃんはどうする?」
「え、えっと……私は行ったことがなくて……」
じゃあ、と手を引いて歩き出す。
「今日が初経験ってことね。何事も経験だよ」
恋歌は機嫌良く、心の手を引いて歩き出した。
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