第8話 女王の音楽


 それは佳苗が偶然手に入れたものから始まった。

「舞夜、ここにライブチケットが2枚あるんだけど、誰かと観に行く予定とか今から立てれる?」

「佳苗ちゃんと私が行くのじゃダメなの?」

「いやー、行きたかったんだけど用事が入ったのよ。それで私の分合わせて二枚余ってるから、誰か一緒に行く人とかいればその方がいいかなって」

 なるほど、と舞夜はチケットを受け取り、誰を誘うか考えていた。


「それで、何で私なんだよ?」

「いや、まだ朱音とあまり話したことないから、いい機会かなと思ったの」

 金曜の夜、荒波市の左隣にある美山みやま市の小さなライブハウスの前で舞夜と朱音は立っていた。学校から一度家に帰り、集合した次第だ。

「ま、いいか。ところでこれって、誰のライブなんだ?」

「誰のって言うか、今日のは学生バンドがいくつか集まる定期ライブらしい。佳苗ちゃん、こういうの好きだったんだ」

 まあ、何でもいいかと朱音がライブハウスの扉を開けて入って行く。

 学生がメインのライブということもあってか、学校帰りらしき制服姿の人間が多い。

 それも美山市の美山高校以上に他の市からの学生が多い。

「意外と普通な雰囲気だな。ライブとかって言うと、私みたいな初見の人間とかは入りづらいイメージがあるけど」

「うん、私も普段こういうとこ来ないから緊張してたけど、意外とって感じ」

 しばらくして、談笑している客たちの声は照明が暗転したことにより静まる。一番最初のバンドが客を盛り上げる為の掛け声のようなものをかけ、それに乗っている。

 どこのバンドも結構な技術力を誇っていると思うのは、舞夜が音楽に関して素養がないからなのか、本当に各グループが上手いからなのか。

 ライブも終盤に差し掛かり、出て来た一組みのバンドに朱音が今まで以上に注目していた。

「知ってるの?」

 舞夜はそのバンドが準備をしている為静まっている最中、朱音に問いかける。

「あのギター持ってるの、中学のクラスメイトだ」

 ギターを持っているということでステージの中央付近に立つ、長い黒髪に紫のメッシュを入れている少女を見た。

 四人組のガールズバンドで、朱音と同じ中学であった彼女が、ボーカル兼ギターらしく、自身のバンドの紹介をしている。

 それが終わったところで、ドラマーの合図により演奏が始まった。

 観客はより一層盛り上がりを見せているのは、楽器の腕も歌唱力も今までのバンドの中ではずば抜けているからだ。

 全ての主演バンドが演奏を終了したところで、皆がぞろぞろとライブハウスから出て行く。

「舞夜、悪いけどさっきの奴に挨拶してきたいから、待っててもらっていいか?」

「別にいいよ。喉乾いたしジュースでも飲んで待ってるから」

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