第2話 ペインキラー

  翌日、舞夜は今日も同じく七時半に家を出て学校に向かい、いつも通りに過ごした。

 しかし、帰りだけは今までと違っている。正門の前に人だかり(主に男子の)が出来ていたので、かき分けて行くと、そこには昨日の女性、鎖上凛子の姿があった。

「来たわね。さ、乗ってちょうだい」

 高校男子に彼女の放つ大人の女性という魅力は凶器であったのか、見とれている男子生徒を尻目に舞夜が車に乗り込むと颯爽とその場を後にする。

 いつも一緒に帰る佳苗には、用事で急いでいるということを伝えているので、問題なかった。

「あんな目立つことしていいんですか? 凛子さんって、職業柄人に知られない方がいいと思うんですけど」

「大丈夫よ。名刺を渡しても理解できなかったのは、あなたが身を以て体験したでしょ」

 つまりは、誰も彼女のいる組織について信じられないという変な自信を持っている訳だ。

 車でどこかに向かう途中、舞夜は凛子からこの背後にいる存在について聞いた。

一、自分の背後にある存在が『霊』という名前で呼ばれていること。

二、それぞれの個体ごとに特殊な能力を持っている。

三、能力は一つまでだが付加されるもの、つまり成長するものもいる。

「最後のは舞夜、あなたが当てはまっているわね。あなたの能力は“時間を進める、遅くする”という二つが既にあるからね」

 舞夜の『霊』、その名も“ダンシングナイト(彼女による命名)”は物体に生じる時間の進行を速める、または遅くすることができる。

「この『霊』というのはだな、誰にでもある能力じゃない。現段階では二つのパターンで極めて稀に出現することが確認できている」

一、仮死状態に陥ったことのある者。魂を守ろうとする本能により、自分の中にある潜在的な意識が芽生えた為。という仮説。

二、精神的な衝撃を受けたことのある者。自分が今までに経験したことのない、尋常ではない程の衝撃に出会った時に出現する。という仮説。

「どちらもまだまだ仮説だが、現時点で確認のとれている能力者は大概どちらかに当てはまっている。舞夜、君は五年前の中学校へ上がる直前、大きな交通事故に巻き込まれているな」

「ええ、確かにありました。二週間は目を覚まさなくて一時的に死んでいたとまで聞かされました。それで、目を覚ましてしばらくしてから能力の存在に気づきました」

 車を走らせてしばらくした頃、凛子は路肩に停止した。そこで、昨日のことを舞夜は質問する。

「協力って何をするんですか?」

「能力者の中にはその力を悪用して凶悪な罪を犯す者もいるのよ。そして、『霊』は同じ能力者でしか確認が出来ない。だから、未解決事件の幾つかはこの『霊』が関わっていたりするの」

 そこまで聞いて舞夜は何となく察しがついた。

「あなたが味方となって一緒にいてくれたら心強い。私達の仕事はこの『霊』の能力を研究すると同時に、能力を悪用する人間を取り締まることなの」

 軽い溜め息を吐いた舞夜は、思わず片手で顔を覆う。

「まあ、突然こんなことを言って申し訳ないと思ってるわ。勿論、無理にとは言わない。危険が伴うことだし」

「私みたいな高校生がいるだけで何も変わらないと思うんですけど」

「もっと自分に自信を持ちなさい。あなたはこれから成長するでしょうし。それに、協力してもらいたいのはあなただけじゃないわよ」

 凛子の視線の先には学校がある。彼女が車を停止したのは、ある学校の前で、舞夜は正門と思しき場所にある大理石で作られた学校名のプレートを見た。

清蘭せいらん女子って……超お嬢様の学校じゃないですか!? ということは、今“清蘭市”にいるんですか?」

 矢嶋市の右隣、清蘭市にあるその学校は著名人の娘が通うとされる、有名な進学校であった。

「昨日あなたの学校に行くまでの間にここからも『霊』の気配を感じたの。それで、協力を仰ぎたくてね」

 舞夜を連れてきたのは、『霊』を持つ者が集まると、より広い範囲まで他の能力者を感じ取れるからであると凛子は解説した。

 しかし、舞夜としては範囲拡大の為だけに連れてこられたとあまりいい気分はしない。

 だが、凛子は説得に長けているのか、今後協力し合うパートナーとして行動する可能性も高い相手をあらかじめ知っておくことは相手にとっても舞夜にとっても良いことじゃないかと告げる。

 舞夜としても他の能力にどのようなものがあるかを知りたいという好奇心が芽生え、彼女の隣で待機することにした。

 しかし、この学校は意外にも部活動が盛んで、生徒のほとんどは何かしらの部活動に所属している為帰宅が遅いと中学時代の友達から聞いたことがある。

 待つこと一時間、ようやく最終の下校時刻になったのは薄っすらと空模様が変わり始めている頃であった。

「もしかしたら、もう帰ってるってことはないですか? 部活動に在籍してなかったり」

「いや、私には感じ取れる。まだ学校にいるはず。逆に何も感じないの?」

 同じような能力者に会ったのは久々で、それも昨日だって気づかなかった舞夜にとって新しい能力者探しは向いていないのかもしれない。

 しかし、そう思った矢先に舞夜は自分の脳内に電撃が走ったかのような気分に襲われた。

 微弱な一瞬の電撃こそ、何かを感じ取ったのだと物語っていた。

「凛子さん、今感じた! 来たんじゃないですか?」

「ええ、間違いないわ。彼女がこの学校にいる能力者のようね」

 校門から出てくる部活終わりの女子生徒達の中に一人、綺麗に揃った茶髪のショートボブに纏う雰囲気は“淑やか”、“清楚”、あらゆる気品を詰め込んだかのようなお嬢様であった。

「少し様子を見ましょう。どんな霊を持っているかまでは分からないし、力を確かめてからでも遅くはない」

 しかし、霊の能力というのはそう簡単に人に見せるものではないし、能力の中には発動の条件が整わないと使えないものもある。

「そんなに都合よく発動しますかね? 発動条件とかあるんでしたよね?」

「私は運がいいのよ。昨日だって、あなたが『霊』の力を使うところに出くわしたでしょ」

「偶然も運の内ってことですか」

 徐行で後を追うことにした。それにしても、お嬢様学校の生徒というのは意外と車で送り迎えをしてもらう生徒は少ないのか、皆が駅に向かって歩いている。

 部活をしている為か自然と集団での下校が当たり前になっているのだろうか。

だが、茶髪の彼女は一人逆の方向、他の生徒があまりいない道のりを歩いている。

 そこに遊び終わって帰る最中であろう、一人の小学生ぐらいの男児が走ってきた。

 すると、石にでもつまずいたのか、茶髪の彼女の前で転んでしまう。

 痛みと驚きにより泣き出してしまい、当然の如く彼女は男児の前に走り寄る。

「大丈夫? 痛かったよね。でも、安心して」

 微笑む彼女は擦りむいて血の出ている膝の上に手を翳す。

 その時、手から背後にかけて力の波動のようなものを車内にいる二人は感じ取っていた。

 次の瞬間には傷が消え、泣き止んだ男児は彼女にお礼を述べて走っていった。

「見た? 私、運がいいでしょ?」

「ええ、さすがって感じですね。行きますか?」

 凛子と舞夜は車を下りて、彼女の後を追った。

「そこのあなた、ちょっといいかしら?」

 歩みを止めて二人の方を見た彼女は、疑問を持った目を向ける。

「何か御用でしょうか?」

「突然失礼します。私は鎖上凛子、彼女は相川舞夜という者です。お話したいことがあるのですが」


 三人は場所を変えて、近くの公園へと足を運んだ。すっかり日が落ちてしまい、公園の外灯に明かりが灯る。

 舞夜と茶髪の彼女・喜里川きりかわマリアをベンチに座らせ、凛子はその前に立つ。

「話というのは他でもありません。喜里川さん、ここ最近であなたの中に起こった変化についてです」

「私の変化というのは、どういうことでしょうか?」

 言葉よりも早く、彼女は自分の霊である“グラヴィティ・オペレーター”を出現させた。

「見えるでしょう? 先程、あなたが転んでケガをした男の子を治してあげたのを見ていました」

「別に隠す必要ありませんよ。普通の人には見えないし、私達はあなたに危害を加えたりするつもりで来たんじゃないので」

 次は舞夜が“ダンシングナイト”を出現させる。それにより、彼女の表情は何か安堵のようなものを感じさせるものへ変わった。

「私だけではなかったんですね……少し安心しました。一週間前のあの日から、私の体に現れた変化。ずっと不安で仕方なかったんです」

 マリアの出現させた霊はその名にふさわしいと言わんばかりの、聖母マリアを思わせる容姿をしていた。

「あなたの力は傷を癒やす治癒能力、で合ってるかしら? 一週間前のあの日というとあなたが、あの?」

 何のことかと疑問に思う舞夜に向けて、凛子はマリアの言うあの日というのについて説明を始めた。

「一週間前、この清蘭市で殺人事件が起こったの。いや、正確にはもっと前から起こっている事件の新しい被害者というべきね。そこで一人の目撃者がいた。これまで誰も犯人を見たこともない事件で唯一の目撃者というわけ」

 舞夜にはもう分かった。マリアの方を見ると、彼女は何も言わずに頷いてから口を開いた。

「私が目撃者なんです。殺人の現場を見た私は、悲鳴を上げて思わず気絶してしまったんですけど、お二人なら信じてくれますか? 犯人が私に見られた瞬間、気絶する前に姿を消したんです。まるでそこに誰もいなかったように……」

“誰もいないかのように姿を消す”といった言葉を聞いた瞬間、二人の中には確信めいたものがあった。その犯人とされる人物は霊を持った能力者であると。

「周りの人は誰も信じてくれませんでした。私も次第に自信をなくしそうになりましたけど、この自分の側にいるものを見て確信したんです」

「間違ってないと思いますけど、でも、あなた自分で犯人の顔を見た目撃者って自覚があるのに一人で帰るなんて危なくないですか?」

 舞夜の言葉に彼女はええ、と頷き、ですが、と否定した。

「私は犯人が来るのを待っているんです。あの時、私は何もできなかった。次こそは警察に捕まえてもらうことができるように。この力はそのために与えられたものなのだと思っています」

「しかし、あなたの霊の能力は戦闘向きではないわ。仮に犯人があなたを口封じに来たとして、立ち向かう術がない」

 悲しくも凛子の言うことは現実であり、舞夜はそれ以上口を出さなかった。

 その時、誰かが公園の入り口からゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えた。

「おやおや、三人もいるのかあ」

 不気味な顔の男がこちらを見て笑っていた。ただならぬ様子に凛子と舞夜は既に身構え、マリアを背後に庇う形を作った。

「何か御用かしら?」

 凛子の問いに対して男はクククと奇妙に笑ってみせる。

「おいおい、身構えてまで聞く必要はないだろうよお。分かってるだろ、俺が連続殺人事件の犯人だってよお」

「口封じに来たってことか。自分から言うってことは、あなた相当自信があるってことみたいね。私達を舐めてると、足元すくわれるわよ」

 更にクククと笑った男はその背後から『霊』を出現させた。

 と同時に目の前からその姿は消えており、気づいた時には凛子の側に立っていた。

 そこから一発、彼女の頬に向けて男の拳が迫る。凛子の体は吹き飛ばされ、地面の上をわずかに滑っていく。

「凛子さん!?」

 舞夜は彼女の名を叫ぶと同時にダンシングナイトで男の時間を遅くしようとしていた。

「おっと、危ねえな」

 彼女は驚愕することとなる。今の今まで凛子の元に立っていた男が、次は自分の背後にいるではないかと。

 同じく迫ってきた拳を咄嗟にダンシングナイトで防ぎ、衝撃を弱めたがその場から数メートル程吹き飛んだ。

「いやあ、惚れ惚れするねえ! 自分のこの力にはよお! あの人には深い感謝と慈愛の言葉を捧げてえと思うよ!」

「あの人? どうやらあなたには色々と聞くことがありそうね」

 凛子が体を起こして再度構える。

 舞夜も痛みに耐えて、瞳の奥に怒りの火を宿していた。

「勘違いするなよ、鎖上凛子に相川舞夜。俺がここに来たのは、そこの女を殺すだけじゃねえ! お前たちも入ってるんだぜ! だがな、この船橋愁然ふなばししゅうぜん様の能力には遠く及ばねえ、怖くもなんともないぜ!」

 意気揚々と語る船橋と名乗った男であったが、その体が地面に這いつくばる。

 グラヴィティ・オペレーターの能力だと、昨日身を以て体験した舞夜には分かった。

「体が動かねえ! これが重力操作ってやつか」

「投降しなさい。このまま重力を強めれば、あなたの内臓まで全て潰すことになるわよ」

 クククと押さえつけられている船橋は笑った。

「なーんてな。俺には関係ねえ!」

 再び敵の姿は消え、凛子の背後に立っていた。目にも留まらぬとはこのことである。

 彼女は船橋の連撃を数発防ぐのが精一杯で、腹部と顔面に強打を喰らって吹き飛んだ。

 着地点にあったベンチが粉々になるほどの破壊力と衝撃に、日頃体を鍛えている凛子も気を失う寸前である。

「なるほど、あんたの能力、そういうことか」

 舞夜は船橋の能力がどういうものか、大まかに分かった。

「鎖上さん、大丈夫ですか!?」

 凛子の元に駆け寄ったマリアは傷の治癒を始めていた。

「おい、お前。余計なことをするなよ」

 船橋はマリアの髪を掴む。

「喜里川マリア、お前のことも知ってるぞ。俺様の姿を最初に見つけた女。生かしちゃおけねえよなあ。霊を使うなら尚更だ!」

「させるか! ダンシングナイト!」

 舞夜の叫びに応じて能力を発動しようとしたが、後数メートルのところで発動範囲を外れてしまった。

「お前のダンシングナイトは強い分範囲が狭い。五、六メートルが限界ってとこだろう。それ以上近づくと、この女の喉を喰い破って、お前の口の中に放り込んでやるぞ!」

 奴の能力が分かったところで、今の自分では手出しもできないという事実に舞夜は深い怒りを覚えていた。

 普段は比較的冷静に生きている方だと思う。

 しかし、今だけは違う。明確なまでの怒りが、音を立てて煮えたぎる熱湯のように心の中で渦巻いている。

 状況としてはこちらが殺されてしまう方が濃厚であった。

 勝ち誇った顔をするこの男の顔面にダンシングナイトの拳を何発でも叩き込む自信はあるが、打開策が思いつかない。

 だが、凛子は言っていたのだ。

『私は運がいいのよ』と。

「離れてください」

「ん? 何だ? 命乞いか? もうそんなの聞き飽きたぜ。今まで俺が殺してきたやつはいつも怯えた表情で助けを求めていたからな」

「いいえ。私はあなたに助けてほしいなどと思いません。私のこの力は先程非力であると言われました。けれど、それは違います! あなたは今から自分の力を過信したことを後悔するんです!」

 会ってわずかでしかないが、冷静なお嬢様であろうマリアが叫ぶと同時、船橋の両足が切り落とされた。

 まるで時間が停まったかのように誰もが動かなかった。

「お、俺の足がああアアア!?!? どうなってる!? 何で俺の足が!」

 切れた足から鮮血が噴水のように吹き出し、拘束を解かれたマリアは立ち上がって彼を見下ろす。

「これが私の力です。人や物の傷を治すことでそのエネルギーを吸収し、それを放つことで攻撃にすることもできる。あなたの両足は、この一週間で治してきた分のエネルギーで切断しました」

 勝利を確信していた船橋の顔は、溢れ出る血液によってか青白くなっている。

「さっきの言葉撤回するわ。あなたの霊はとても意思の強い、気高きものだったのね」

「私も助かったわ。おかげで、拳が思う存分叩き込めるからね。あんたの霊は足がないと“瞬間移動”できないのでしょう?」

 何故分かったのかと不思議に思っている船橋であったが、舞夜は奴が移動した瞬間、必ず少し宙に浮いており地面に着地してからでないと次の移動を行わないことに気がついていた。

 傷が完全に治った凛子と舞夜が船橋の前に立ちはだかる。

「一つ教えてもらいましょうか。あなたがさっき言っていた、あの人とは、誰のことなのかしら?」

 口ごもる船橋に向けて、大きな溜め息を吐いた凛子が指を鳴らした。

「あなたが言わなくとも、いずれ私達が追い詰める。ウチの研究所では裁判なんて面倒な手順は必要としていないの。霊の力は私たちでしか解決できない。だから、安心して――」

 地獄で詫なさい。そう静かに凛子が囁いたと同時にダンシングナイトとグラヴィティ・オペレーターの連続的な拳が船橋の全身に叩き込まれる。

 吹き飛んだ体は、縁石に頭を強打させ、その瞬間、完全に命の終わりを感じ取った。

「これで一件落着、って感じかしらあ?」

 舞夜は死体となった船橋愁然へ指で作った銃を向けて言ってのける。

「喜里川さん、あなたがいなければ私達は負けていた。本当に助かったわ」

「いえ、私も無我夢中といいますか。それよりも、あの人の足を切断してしまったことが……」

 彼女はこう言いたいのだろう、『自分でも恐ろしい』と。

 気持ちは舞夜にも分かった。

 予期せぬ程の力を発揮した時、人は恐怖に押し負けそうになる。

 だが、彼女はそれを跳ね除けて二人を救ったのだ。その時点で、既に恐怖には打ち勝っているということを自覚するのはまだ先の話である。

「あいつの死体は研究所で処分するとして、気になるのはやはり“あの人”と言われていた人物についてね」

「ま、それもいずれ解決すると思いますけど。霊を使うものは見えない糸のような運命で絡まっている。なんとなく私はそう思う」

 舞夜の言葉に凛子は、間違いはないと頷く。

「それで、喜里川さん。あなたに会いに来たのは別にあの男を追っていたからとかではないの。私達に協力してほしくて頼みに来たというわけ。舞夜やこれから出会うであろう霊を持つ人と共に戦ってほしいの」

 今まで何年も霊を使ってきた舞夜でも、相手の命を奪うかどうかの戦いを初めて行った今は少しの恐怖心を覚えているところであった。

 まだ一週間という短い期間しか霊に触れていないマリアをこの世界に引き込むというのは酷な話ではある。

「私は……戦います。皆さんの元に一緒にいさせてほしい」

 だが、彼女の魂はより強固なもので、見た目とは裏腹に強さを兼ね備えていた。「危険な日々が続く。誘っておいてなんだけど、本当にいいのね?」

「あの人のようにこの力を悪用して、何の罪もない人達に被害が及ぶのをこれ以上見たくありませんから」

 新たな仲間として、喜里川マリアが加わった。

 凛子が研究所に電話をすると、遺体の処理班と思しき白衣や防護服に身を包んだ集団が来た。

 すっかり遅くなってしまった為、二人とも凛子が直接家に送ることになった。

「そういえば、あなたの霊って名前はないの?」

 行きは助手席であったが、帰りは後部座席に移った舞夜がマリアに質問する。

「名前? 皆さんが仰ってたのは自分でつけられたんですか?」

 その場で霊の名前を考えることにしたマリアは、やがて思いついたように手を叩いて。

「傷や壊れたものも治せる“ペインキラー”ってカッコよくないですか?」

「あなたって独特のセンスしてるわね」

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