第11話
絲山遼子とゆっくり話す機会を持てないまま、すぐに前期試験の時期になった。
単位を落とすわけにはいかない寛だったが、彼女の姿を一目拝みたいがために、わざわざ講義のない日に日吉キャンパスに出かけた。前の週の水曜は、企業の面接が入ってしまって文学の講義に出席できなかった。その前の週の水曜は、教授の都合で講義が休みになっていた。二週続けて彼女に会えなかったのだ。
日吉に来たところで彼女に会える確証はなかったが、寛は何かに突き動かされるようにしてキャンパスを探し歩いた。思いが通じたのか、混み合う大学図書館を見て回っているとき、寛は三階の隅の席で勉強する絲山遼子を見つけることができた。
ところが、いざとなってみると声をかける勇気が出なかった。書架の間を行ったり来たりするばかりで行動を起こせないでいると、絲山遼子がふと顔をあげた。寛はついに思い切って手を振ってみた。彼女はにっこり笑って手を振り返してくれた。
それだけで天にも昇る気持ちになった。
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