13. ーside 国彦ー 幻想と現実


ああ

とうとう

やっちまった



それが至極正直な感想で


あんなに欲しくて

初めて入った れえの体の中

感触も温度も、気持ちよかったのかさえ何も覚えてなかった


それでも、

まるで家族とヤッたみたいな背徳感と、どっか後悔にも似た感情が過ぎ去ってからは



“もっとはやく ただ 繋がってりゃよかったんだ”



そんな言葉だけぽつりと脳内に残った。




『くそ…まじで、死ねよおまえ』

終わった後で、息荒いれえが強がるような口調で俺を睨み付けて言った

のに、

俺はもうだめだ

耳倒した犬がキバ見せて威嚇しながら、

それでも足の間に隠してる尻尾小さく振ってるみたいに見えて


いじめていいよ

って合図にしか見えなくなってる


なわけ無いのに



労わりたくて雨と汗でぐっしょりと湿ったれえの前髪を撫でた

ひとり突っ走って、随分無理させたと自己嫌悪してる俺に

気付いてか気付かずか

当のれえは撫でられて気持ちよさそうに瞳を閉じて、まるで猫みたいに俺の手のひらに自分の額を押し付けてきた。




やばいって

わかってんのかな


『…大丈夫か』

『なわけねーだろ……いてーよ、バカ』


言葉と裏腹に、れえは俺の手のひらにその額を自分からまた強く押し付けた

切なげに目を閉じて少し泣きそうな表情になっていた

俺はれえの熱がじんわりと伝わるのを感じてるだけで

おかしくなりそうだった


『なあれえ、わかってやってんの?』

『?』



もういっそ無防備なくらい

身体も 心も 全部預けるように ぐったりと力の抜けたれえが少し首をかしげて俺を見つめた

れえ自身当然なんの検討もついてない

まして狙いも打算もないまっすぐな瞳だった。

その純粋で無垢な瞳に捕えられて湧きあがる欲情に、もうこれ以上痛い思いをさせたくない理性が勝って、俺は思いきるようにしてやっとれえから身を離した。




その夜は別々のベッドで眠った

あれだけ好き勝手動いて吐きだしておいて、なお我慢できる自信が俺にはなかった



それから二日れえと意図的に距離をとって過ごした

記憶は時がたてばたつほど美化され、一方でより鮮明になった


そしてなにより一度繋がったら歯止めが利かなくなって、また繋がりたくなる




「ヤだよ、…くに、だめ」

堪えきれず3日ぶりに入ったれえの中は

どんだけ愛撫しても相変わらずぜんぜん俺を受け入れてくれない

聞こえてくるのは悲鳴みたいな泣き声でそれにすら興奮してる自分に心底嫌気がする


それでもはじめての時にはなかった俺自身の微かな余裕からか

興奮して雑然とした頭で、俺はただれえのいいとこを探った

それでも打ち付けて揺らす度に快感だけじゃない、まぎれもない罪悪感と理性が俺の中を廻る




「れえ……殴れよ、…なあ」


こないだみたいに。


じゃないと、止まれない



そんな自分が本気で情けないけど

快楽の中でそう言っても

れえは痛みにたえるようにただただ涙を流して声を出さないように堪えるだけだ。

その健気さがまた愛おしくて止まんなくなる





なんでそんなに抗うんだろう

男のプライドズタズタにされて

つらい いたい こんなのいやだ

そう思ってるはずだろ れえ


声も出せずにそうして耐えるれえの姿に、その本心を見つけられないのに

同時に、重ねるごとに力の抜けていくその身体と、言葉以外ではもう拒まなくなったれえにどこか期待している自分もいた


ハッとして

そんな自分自身のエゴに急に冷静になった

れえの両手を掴んで組み伏せる体制だった俺は、掴んでいたれえの手首を自由にして

少し身を離した

そうして、じっと思案していたのもたったの数秒だったが、それでも急速に

自由になったれえの手が俺の上半身をぐっとれえ自身に引き寄せてきて、俺とれえの上半身がぴったりと合わさった。

俺はあまりに急な展開に、れえの身体に全体重がかからないように堪えるだけで精一杯で

でも、それにも劣らぬ強い力でれえに俺の頭ごとぎゅっと抱き寄せられた。

何が起こっているのか一瞬わからなかった

身動きできる余地もなく、中心で繋がったまま、ただれえの鼓動と俺の鼓動が重なりあっていた


「れえ…?」

「…やめん、な。ごめん。俺大丈夫、だから」


ぎゅっと抱きついた腕に力がこもった。

その言葉と

それだけで、萎えかけた俺の欲情なんか一気に復活してしまうんだけど

いかんせん身動きがとれないほど頭をがっちりれえに抱え込まれててどうにもならない


「?…れ……動かせて」

「や、ら無理。顔、見んな、見られたくない」

「なんで」



もうだめだ

可愛さ はんぱねー…


俺はれえの背と腰に腕を回し、れえを俺に抱きつかせたまま起き上がって、

座った形でそのままれえの背をぽんぽんと軽く叩いた。

俺からは動けないけど、体位の変化でさっきより深く差し込んだか

れえはさらに強く俺にしがみついた。


「……ぅ、ン、ん」


我慢してるのにそれでも漏れ出たれえの吐息が、俺の耳元で切なく響いてクラクラする。

れえの腰に手を回して

少しだけ腕を緩めてくれた瞬間にれえにキスした。



「いいとこ、教えてくれよれえ」


そのまま俺が後ろに倒れて、れえを俺に馬乗りにさせてから

れえを下から攻めた


「あ、や…くに、やめ」

「…ここじゃねえの?れえ、ちゃんと自分で腰使って」

「ッ、や、変態、ばか」

「…、……うん。」




結局


どこがいいかわかんなかった



つうか、俺の上でれえが無防備に揺れてんのが壮観すぎて

すぐ余裕なんかなくなったし

れえの声が甘くなるとこ狙って攻めたけど、最後はまた俺が下からがっついて終わった。



俺は、叶わないと思っていたあの頃も、いまのいままでずっと

夢で

妄想で

何度もれえと体をあわせた


どころかめちゃくちゃに犯して

何度も何度も

その中に欲望を吐き出したのに


それなのにれえの現実リアル

俺の妄想をはるかに超える愛おしさを俺に与えて

想像しえないほど純粋な好意と言葉を返してくれる



身体を重ねる度 驚くほど

俺の知らない、礼の本当の顔を見ている気がした




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