other side3:白黒

「おっと、もうこんな時間か。ワイも早いとこ引き上げんと」

 

そう言って野球帽は夕闇に姿を消した……かに思われたが、その後すぐにまた姿を見せた。

 

「あ、一つ言い忘れてたわ。ワイと坊っちゃんたちはまたどっかで会うと思うで」

 

多分、三年くらい後にな。

ほな、また。


そう告げた野球帽は、今度こそ夕闇に姿を消した。少年達には、まるで建物の伸びる影が彼を呑み込んだかのように見えた。

 

「なんだったんだ…あいつ」

 

レクが言う。少年達は呆然と立ち尽くしていた。今までの出来事、そしてこれからの事、大きすぎた真実を前に、ただただ、立ち尽くしていた。

 

 

 

「お、なんや、待っててくれはったんか。おおきに」

 

町のはずれ、錆び付いた鉄塔の上へ野球帽が戻ってくると、一人の少年が彼を待っていた。少年は白い軍服を纏い、頭にはそれと揃えられた軍帽を被っている。

 

「とっとと帰ろうと思ったが、お前一人ではヘマをするのではないかと思ってな」

 

そう毒づく少年に、野球帽は笑顔で答える。

 

「心配してくれはるなんて嬉しいなあ。もっと素直になってくれてもええんやで」

 

ふざけたことを言うなと少年が返す。

 

「まあまあ、そうカッカせんといて。あ、そういえば。あれって本当なんかな。"三年後"っちゅうやつ」


野球帽は話を反らし、少年の怒りを上手くかわした。"三年後"というワードに反応し、少年は顔を斜めに倒す。

 

「さあな。しかし姉さんの言うことだ。何の脈絡もないことではないだろう」

「それなんやけどなあ……まだイマイチ信用できないっちゅうか……」

 

首を傾げる野球帽に向かって、お前の言いたいことも分からなくはない。しかし、と少年は続けて言う。

 

「今、俺たちが彼女に信頼を置くべきなのは変わらない。それに、」


それに?と聞き返す野球帽に、少年は藍色の空を、否、何色にも染まらない虚空を見つめて言った。

 

「姉さんは───彼女はきっと、魔法を使う」

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