第10話 影が告げる真実
「じゃ、話させて貰うで」
「ちょ、ちょっと待てよ。あんた一体何もんだよ」
レクが話を遮ろうとしたが、リョウとダイキが何も言わずにいるのを見て、大人しくせざるを得なかったのか、結局黙り込んでしまった。
暗がりの中、話を始めた野球帽の少年。街灯に照らされたリョウたち三人は、それを静かに聞いていた。
「ちゃんと質問には答えるで。ワイはとある男に雇われた、坊っちゃんたちが危ない目に遭わんか見張っとく役や。これ以上は特に言える事はない」
野球帽はリョウたちの事を坊っちゃんたちと呼んではいるが、背丈はあまり変わらないように思えた。
だが、三人は野球帽に同い年くらいという事による親近感はあまり感じなかった。どちらかと言えば飄々とした野球帽の様子に、三人は少し怪しさを覚えていた。というかこの状況で怪しさを感じないはずはなかった。
「じゃ、本題に行くで。まずは坊っちゃんたちの力について。これは一番知りたかったんとちゃうか?」
野球帽が笑みを浮かべながらそう言うと、三人、特にリョウは、真剣な目付きで首を縦に振った。ただ、その足は、小刻みに震えていた。
あの日からずっと気にかかっていたこと。こんな事件に巻き込まれた理由であろうあの竜の力。その正体がようやく分かるかと思うと、少年は嬉しく思う反面、なんだか怖いように思えた。
お前は化け物だ。もしかしたら、そんな意味の言葉を突き付けられてしまうのではないか。その一言で、自分が人として普通に暮らせなくなってしまうのではないか。
そんなの嫌だ。怖い、怖いよ。
少年はそんな風に考えてしまっていた。
「ん?もしかして……怖がっとるんか?大丈夫やで。坊っちゃんたちもワイも、皆おんなじ人間や」
震える少年を見て、野球帽は心を見透かしたかのようだった。リョウはその言葉を聞いて、少しだけほっとした。
「じゃ、続けるで。坊っちゃんたちの力───まあ超能力みたいなもんやな。その超能力の力の源、それをワイらは煌めきのエネルギー、
三人は先程の戦いの前の覚醒、そしてあの日のリョウの力が目醒めた時の事を思い出す。確かにどちらの時も、覚醒時には体から煌めきを発していた。でも、どうしてそれが……その質問を遮るように、野球帽は話を続けた。
「そして、その煌気を使い、それぞれの能力を引き出すことの出来る者たち……つまり坊っちゃんたちやワイのことを、ルミナシストと呼ぶんや」
唐突すぎて話の流れに頭がついていけない。少年たちは激しい風の中で舞う木の葉を掴むように、言葉を耳に入れることだけで精一杯だった。
「さて、不思議な力についてはこの辺でええか?それじゃ次の話題に行くで」
素早い話の流れで質問させる隙を作らない野球帽に、少年たちの中の彼を怪しむ気持ちは大きくなり続けていた。
「次は、坊っちゃん……確かリョウ、とか言うたか?何故あんさんが狙われているのか、そしてあんさんを狙っているのが何者なのか教えたるで」
少年たちは暗がりの中の野球帽を見つめる。やはり彼の表情はよく見えなかった。しかし一つだけ、分かることがあった。野球帽から感じる空気は、人を騙そうとしているようなものには思えなかったということだ。
「あんさんが狙われとる理由はただ一つ。あんさんの持つ"竜"の力や」
"竜"の力。それが何であるか、その力で一体何ができるのか、それは自分にもよく分からない。そう野球帽は語った。しかしその力が、リョウが狙われている原因であることは間違いない。野球帽はそう話を続けた。
「まあ、そう言うわけであんさんの竜の力、これをある目的のための手段として使おうとしとる輩がおるわけなんやけども……」
そこまで言うと、野球帽は耳の上辺りを掻き、少しの間口をつぐんだ。それを不思議に思った少年たちは顔を見合わせる。
「お、おい。教えてくれるんじゃないのかよ」
レクが言った。確かにここまで間髪入れず話を続けてきたのに、急に話を止められると少年たちは何だか調子が狂う気がした。
「いや、勿論言うつもりでここに来たんやけど……」
野球帽はそう言うと、少年たちに背を向けたまま、近くの街灯が当たっている場所に移動した。しかし、むしろそこへ動いてくれたお陰で、ようやく少年たちにも野球帽の顔立ちが、細かい表情が見えた。
「これを伝えたら、坊っちゃんたち、後戻りは出来へんのやで……」
そう言った野球帽は、少年たちが思った通り、やはり年はそう変わらないだろう、そんな少し幼い顔立ちをしていた。しかし、その表情はその年頃の少年には似合わない、険しいものであった。リョウには、何だかそれは何かに悩んでいるようにも見えた。多分、本当の事を言うかどうか、迷っているんだろう。リョウはそう思い、口を開く。
「ねえ、僕たちならとっくに覚悟はできてるんだ。気にしないで本当のことを教えてほしい」
それを聞いた野球帽の瞳が、一瞬、大きく開く。街灯の淡い光が映り込んで、きらきらと煌めく。それはまるで、少年たちの心を映し出したかのようにも見えた。そして、口元に笑みを浮かべると、少年たちの方を向き直して言う。
「そうか……そうやな。坊っちゃんたちも、ワイと同じやったな。じゃ、遠慮なく言わせてもらうで」
少年たちは、気付いていなかった。
あの日、雨の降っていた日、空を黒と不可思議が覆い尽くした日、自分たちが巻き込まれた出来事。
その出来事の、本当の大きさに。
少年たちには、見えていなかった。
これから先、自分たちの前に立ちはだかる、巨大な、強大な壁に。
「あんさんを狙っとる黒幕……その名は、能多吉一や」
きょとんとした顔で自分を見つめる少年たちに気付いた野球帽は、すまんすまんと言い、再び口を開く。
「この方が分かりやすいわな。リョウ、あんさんを狙っとるのは、」
そして、次の言葉で、少年たちの周りの、小さな世界が凍りついた。
「能多吉一内閣総理大臣。今現在の、この国のトップや」
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