第8話

 夜中に、またものスゴイ振動音が団地に響いた。

 私はふと少女の事が気になった。私は何か予感を感じ、自分の庭へ行ってみた。

少女はいた。鬱蒼とした暗闇の中で少女は白い椅子の上で膝を抱えうずくまっていた。私は草むらからそんな少女をしばらく見つめた。

「私の部屋へ来ないか」

 そんな言葉が喉元まで出かかっていた。

 私も決して恵まれた子供だったとは思わない。私も孤独だった。しかし、常識的な親はいて、窮乏するほどに食べることに困ることも、お金に困ることも無かった。夜には安心して眠れるベッドもあった。

「私の部屋へ来ないか」

 喉元まで出かかっている言葉は硬直したまま言葉にならなかった。

 私の全身に言い知れぬ無力感が浸み渡って行くのを感じた。私の両手はいつの間にか思いっきり握りしめられていた。

 私は無惨に自分の部屋へと一人帰り着いた。いつもは一日二本と決めているビールの三本目を開けた。

「私にどうしろというのだ」

 そんな自分への問いかけも、背中にぬめっとへばりついた後ろめたさの中で虚しく空回りするだけだった。

 四本目のビールを飲んでもまったく酔えるような気分ではなかった。言い知れぬ罪悪感が私を離さなかった。頭の中を巡り巡る言い訳を、考え得る限りの言葉と理屈で補強し、武装しても、私の心は全く晴れることはなかった。

 私は自責の苦しみから逃れるように、再び自分の庭へ走った。しかし、少女はもうそこにはいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る