第5話

 私は昼過ぎ、自分の庭にノートパソコンを持ち出し、仕事をもはや仕事とは呼べないのかもしれないが始めた。ノートパソコンはもうかなり古く、バッテリーが寿命で使えなくなっていたため、部屋からわざわざ延長コードをつなぎ合わせ電源を確保しなければならなかった。しかし、その作業さえも今はなんだか楽しかった。

 私がもの書きに没頭し始めた時だった。ガサガサとまた周囲の草が揺れる音がした。猫にしては音が大きい。私は少し身構えてその音のする方を振り返った。その音はなんの躊躇もなく真っすぐにこちらに近づいてくる。

 ついにその音は私の空間へとやって来てしまった。その音の主が草むらの間から現れた。それはあの以前突然私の部屋の中に入って来たあのおかっぱ頭の少女だった。

少女は前回と同じように固まったように私を見つめた。私も多分前回と同じように戸惑いながら少女を見返していた。しかし、少女は前回程の怯えたような表情はしていなかった。

 今日も私の空間にやって来て、何をするでもなく静かに私の足元に体を預けるようにうずくまっていたマイケルが、そんな立ち尽くす少女にすーっと真っすぐすり寄って行った。少女は無表情のまましゃがみ込むと、すり寄るマイケルをゆっくりと不器用に撫で始めた。

 それから、少女も猫同様、たびたび私の空間にやってくるようになった。少女はここに来るといつも、何をするでもなく私の周囲をうろうろしていた。

 私は、突然思い立ち、少女用にもう一つ椅子を私の机から少し離れた所に置いた。それは木で出来た白い椅子だった。いつだったかゴミステーションに置かれていたのを、あまりに上等なものだったので思わず持ち帰り部屋に置いていたものだった。多分何か対になっていたのだろう。それがはぐれて捨てられた。私はそう想像した。そう考えなければ決して捨てないだろうと思うほどの素晴らしいデザインと作りの椅子だった。

 少女はいつの日からかその椅子に座るようになった。

 

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