第4話

 何かがガサガサと周囲の草むらを揺らしている。私は何か獣が出てきたと察した。隣りは山である。イノシシなんかも出ることは珍しくない。私は少し身構えて音のする方を注視した。

 草むらからひょこっと小さな白とオレンジの頭が覗いた。それは猫だった。大げさな音とは裏腹にあまりに小さくかわいい姿に私は拍子抜けして、笑ってしまいそうになった。

 猫は私の姿を見ても怯える様子も警戒する様子も逃げる様子もなく、逆ににゃーにゃ―と甘えるように真っすぐ私にすり寄ってきた。猫はしゃがんだ私の膝に乗り、安心しきったようにくつろいだ。これ程に警戒心の無い動物を私は今まで知らなかった。

 猫はそれからちょくちょく私の空間へやってくるようになった。その猫は恐ろしく人懐っこく、いつもにゃーにゃ―と寂しさを訴えかけるように自分の方から私にすり寄ってきた。私もそんな猫が堪らなく好きになった。

 猫には首にバンダナのような赤い布がオシャレに巻かれていた。どこかの飼い猫らしかった。猫は私が何か餌をやっても絶対に食べようとはしなかった。それはまるで自分の中の絶対的なルールであるかのようであった。

 私は勝手にその猫をマイケルと呼ぶようになった。その名前に特に意味はない。ただ浮かんだ名前を勝手にそのまま使っただけだが、それが私にはどこかしっくりと感じた。

 今日もマイケルはやって来て、私の膝の上に乗った。最近では私がしゃがまなくても椅子に座っている状態で膝の上まで登ってくるようになった。

 私は以前犬が好きだった。猫など何がかわいいのか全く理解できなかった。しかし、いつの頃からか私は猫が好きになっていた。それはいつの事だったのか、何がきっかけだったのか、全く覚えてはいない。しかし、なぜかそうなっている自分に改めて不思議な思いをもった。

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