詩作 『渇求』

 キッチンと部屋が近いせいもあって

 コーヒーを淹れると

 自室の低い天井に下がる

 蛍光灯の裏から

 ぼうぼうと音を立てるファンヒーターの

 底の方に至るまで

 かぐわしく

 芳ばしい香りが広がる


 机の上にはテレビが有って

 四角い画面の中では

 二時間ドラマのヒーローが

 自慢の推理を働かせている


 テレビと同じように

 四角い窓を見ると

 空の青と

 夕日が混じったような

 白とも紫とも言えない微妙な色が

 伸び伸びと駅前の交差点を見下ろす様子が

 なにやら少し

 惜しいように思えた


 そういうとき

 ふと気分が瞑想じみて

 淡藤色の空に飛んで行きそうになるのを

 やはりコーヒーの香りと

 机に並んだ二つのドーナツが

 僕の意識を

 部屋の中に留めてくれる


 そしてまた

 そういうとき

 これこそが人生なのだな

 と

 まるで達観したような気分になる


 これこそが僕の望む

 心のやすらぎというか

 そういう類の

 欲望というには清純で

 理想というには

 やや俗っぽい

 ささやかな喜びであり

 日々の合間あいまに求める

 僕が芯から欲する物だ

 と思うのだ

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