詩作・随筆集 新雪
純丘騎津平
詩作 『新雪』
男は
呼吸を止めると、木々を跳ね返る鳥の声さえ、聞こえなくなった。耳が痛むほどの静寂の中、自らの心音だけが、ただ
彼の、青く澄んだ瞳が映すのは、
深々と大地に
樹木の隙間から指す陽光を、その一身に受け、漆黒の体毛は
過酷で、容赦なく、不平等な自然の中に有って、その牡鹿は美しかった。
男は息を止めている事さえ忘れ、見入っていた。
手の震えが止まらなかった。
身を刺すような厳寒のせいでは無い。彼は恐怖していたのだ。
何故、自分はあれの
生きる為か、それとも
たかがちっぽけな人間ではないか。
死して灰に返るより仕方が無い、粗末な男。
己より遥かに尊いではないか。
男の凍える喉を、濁流の様な空気が通り抜ける。
彼の肺は、これ以上、もたなかったのだ。
ほんの僅か、照準機が揺らめく。
銃口が
心中には
生は、本能。
恐怖は、
本能より
今は死せよ、狩人。
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