第12話 最後にかあちゃんに会いに行く(その1)

ずいぶん、下界にいたときの記憶と意識は薄らいできた。


 生きていた頃のこともあんまり思い出せない。そろそろ、俺もふるさとに戻るときが来たようだ。


 最後に、もう一度、かあちゃんに会いに行こう。


 今日も、かあちゃんスーパーで働いている。なんだか、随分小さくなったな。顔もむくんでないか。言葉も少ないね。

 まあ、俺がいなくなってから、ずいぶん、落ち込んだんだろう。元気出せよ、俺はずっとここにいるんだから。死んだ俺は平気なんだから、かあちゃん、落ち込むなよ。

 それにしても、かあちゃん、相変わらず、みんなに気を使って、無理して笑顔を作って。


 無理するなよ。


 となりのおばちゃんに注意されて、また、ペコペコしてる。かあちゃん、たまには、怒ってもいいんだぜ。スーパーなんか休んじゃえよ。


 かあちゃんのそういうところが俺は嫌だった。

 それは、俺自身がそうだったから。


 バカにされないように、踏みにじられないように、そうやって生きてきた。そんなにうまくはいかなかったけどね。


 人間の時間で、どれくらい経っかた分からないが、気づいたら、スーパーの外はすっかり暗くなっていた。


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