第10話 霊の世界(その1)
こちらの世界に来て、どれくらい経ったのだろう。
こちらでは時間の概念がない。
たぶん、地上の人間の感覚では、1週間とか、1ヶ月くらいは経ったんじゃないだろうか。
地上で生きていたときの記憶と意識も、随分あいまいになってきた。細かいことはどうでもいい、すごく、ゆったりした気分だ。こちらの世界は悩みも苦しみもない。
こちらの世界に来ていろいろ分かったことがある。
分かったというよりも思い出したという方が正確かもしれない。
むろん、こちらの感覚をぴったり表す地上の言葉はないのたが、こちらの世界は、それほど難しいものじゃない。おどろおどろしいものでも、神々しいものでもなく、いたって普通だ。
よっぽど、地上の世界の方が、複雑で、理解することが難しい。
そもそも地球には引力があって、それで、生物は肉体を持ち、移動にどれだけ苦労してきたことか。その上、人間には、生きていくために様々な欲を与えられ、また、生活、経済、人間関係など無数のルール・決め事がある。
こちらの世界では、ひとつの大きな魂があるだけだ。みんな魂は一緒なんだ。
そこから小さな無数の魂に別れ、地上に降りていく。魂が地上に降りていくことを、地上では、「子供が生まれた」と言うが、こちらの世界では「魂の修行に出た」って言う。あえて、人間の言葉に言い換えればね。
魂は、こちらの世界にいると、楽で、居心地はいい。
ただ、なんていうのか、一言で言えば、つまらないんだ。
たまに地上に降りたくなる。
地上でも、部屋に閉じこもってばかりいたら、苦労はないけれどつまらないだろう。
地上で、親元離れて一人暮らししたいとか、一人で留学してみたい、という感覚と大して変わらないんじゃないかな。
魂は地上に降りていろんな体験をして、また、こちらの世界に戻って、大きな魂に帰っていく。
その繰り返しで、魂全体も少しずつ成長していく。
魂の成長というのは、大きくなる、強くなる、深くなる、コクがでるというのかな。人間界で「あいつは精神的に成長したな」というっていう感覚とそんなに変わらないと思う。
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