第9話 いじめ

かあちゃんのことが嫌だと思うようになったのは、俺が、中学生の頃だったと思う。


 中学校では、いじめがあった。


 といっても、いじめか、いじめじゃないかって、自分たちでもよく分かっていなかったと思う。

 俺のクラスにも、いわゆる「権力者グループ」みたいなやつらがいた。AとBが中心で、その周りにいつも4~5人の取り巻きみたいなのがいて、クラスを仕切っていた。


 あいつらが何をやっても誰も何もいえず、好き放題に振舞っていた。


 俺が、廊下歩いているとき、後ろからいきなりドーンと背中を蹴飛ばす奴がいた。振り向いたらAが「元気?」ってにこやかにいうのだ。

 こういうとき、俺の中では、「何すんだよ!」と笑いながら蹴り返すのが正解なのだが、実際は、小さな声で「びっくりした・・・」と卑屈な愛想笑いをするのが精一杯だった。


 あいつらはあいつらで、クラスの人気と支持をそれなりに勝ち取っていた。俺なんかが何か言ったって無駄なんだ。


 自分の嫌いな奴がみんなに嫌われていれば自分にも自信が持てるのだが、そいつらが自分よりも周りの支持や人気を集めているときは、自分の方がおかしいと思ってしまう。


 もっと言えば、俺は、あいつらにからまれると、ひょっとしたら俺もあいつらの仲間になれるかもしれない、そしたら俺もクラスで一目置かれるようになるかもしれないという、卑屈な期待感もあったりしたのだ。


 結局、俺とあいつらは住む世界が違うという現実の前で、ジレンマと自己嫌悪に陥るのが常だったけどね。


 高校時代の思い出はほとんどない。


 勉強だけはやったと思う。勉強やっていると、周りから、「勉強だけが人生じゃない」とか、「勉強しなくても生きていける」とか、いろいろ言われた。

 ただ、俺みたいに、人間関係が下手で、なんの特技も魅力もない人間が、勉強もできなかったら、どうやって生きていくんだ、と思った。


 それでいて、大学受験に失敗したんだから世話はない。


 俺の人生はこんなものだと思った。夢や目標など持たないほうがいいと思った



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