第7話 葵のこと(その4)

葵と出掛けたデパートでは、デパートの喫茶店でお茶を飲むのが定番だった。


 葵も、俺のわけの分からない趣味じゃなくて、ちょっとおしゃれで、背伸びしたようなこともやりたかったのだと思う。

 でも、デパートの喫茶店って、大学生のカップルが行くところなのかね。


 自分は、葵のそういうところが好きだったのかもしれない。


 自分が何が好きなのか、はっきりしている。葵と一緒に歩いていると、なぜか周りがぜんぜん気にならないのだ。

 葵は、デパートの帰りにいつも箱に入ったチョコレートを買っていた。


 葵は、俺のことを「○○君」って下の名前で呼ぶのだ。


 今まで女の子に「○○君」って呼ばれたことなどなくて、最初は、なんだか馬鹿にされているような、変な感じがしたのだが、そのうち気にならなくなって、不思議と、いい響きに聞こえるようになったのだ。

 葵と一緒にいると、ふと、葵は、どうして俺なんかと一緒にいるんだろうか、一緒にいて楽しいんだろうかと思うことがあった。


 葵は、俺の、日常の、大して面白いと思えないような話でも、すごく真剣な顔をして聞くのだ。


 思わず俺も、どうでもいい話をべらべらしゃべってしまう。


 人間の価値観が違うということは神様からのプレゼントだということを初めて知った。


 真剣に俺の話を聞く葵を見て、なんとなく、この人のことは裏切ってはいけない、この人を幸せにするのが自分の役割なのかもしれない、と思うようになっていた。

  

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