第6話 葵のこと(その3)

葵とは、随分いろんなところに出かけたと思う。

 

 一度、レンタカーを借りて、日帰りで箱根に行ったことがあった。

 免許取り立ての俺には本当は荷が重かったが、葵との関係では、俺はドライブが好きだということになっていた。


 好きなのは嘘ではない。

 ただ、誰も得意だとは言っていない。


 曲がりくねった山道の道路脇の縁石を踏んで車がゴトンと大きく揺れたときは、何事もなかったようにお互い平静を装ったが、帰り道、交差点でうまく右折できず、交差点の真ん中で立ち往生してしまったときは、さすがに葵も目を白黒させていた。


 それ以降、2人で出掛けるときは葵が仕切るようになっていた。


 葵はデパートが好きだった。


 服を見に行くときはいつもデパート。葵は、俺に「この服どう思う?」と聞いてくるのだ。

 一応、何かコメントを期待しているのだと思って、何か言うが、葵が俺の意見など聞いてない、ということが分かるまでそれほど時間はかからなかった。

 葵も、それほどファッションに興味があるというわけではなく、服を沢山持っているようにも見えなかった。

 たまに葵が買う服は、よくいえばシック、悪く言えば地味、もっと正直に言えばおばさんくさかった。


 それから、葵は、よく緑のスカーフをしていた。 


 正直、その趣味は俺には理解できなかった。そもそもスカーフなんて、お金持ちのおばさんがするものだと思っていたし、自分の知り合いでスカーフをしている人も見たことなかった。

 

 ただ、そのころ、俺の中に、葵の服の趣味について、コメントする勇気などまるでなかった。

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