第5話 葵のこと(その2)

11月の海。


 風が強い。砂浜には誰もいない。


 以前、一人で行ったときは、まだシーズンが終わったばかりで、人の賑わいもあり、快晴で、なんだかおしゃれなビーチという雰囲気だったが、今、目の前には、どんより曇った空と、寒々しい海が広がるばかり。

 海岸に座ってのんびり海を見るという雰囲気でもない。


 時間がつぶれないので、砂浜を歩くことにした。


 歩くたびに彼女のパンプスが砂に沈む。無理やり歩いている。

 それはそうだ、初めてのデートで、ビーチサンダルや長靴はいてくる奴なんていない。

 「寒いね」という言葉をできるだけ明るく交わしながら、なんとか間を持たせる。


 とうとう雨まで降ってきた。


 近くのハンバーガーショップに入って、お茶を飲んで、そのまま電車で帰ったのだ。


 こういうことを、日本語で、一言で表現するとすれば、“不発”というのだろう。


 俺はいつも失敗しないように、考えて、考えて、考えて、その挙句に失敗するタイプだった。雷が怖くて、それを避けようと、逃げに逃げて、その逃げたところに雷が落ちてくるタイプというのかね。

 まあ、しょうがない。いつも、こんなもの。まあ、どうしても、また、彼女に会いたいというわけでもないし。不都合な真実には逆らってもしかたないのだ。


 翌日、葵からメールが来た。


 「楽しかった。また、どこか行きたい。」


 不思議な感じがした。そして、ちょっと嬉しかった。いや、本当は、かなり嬉しかった。

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