第4話 葵のこと(その1)
気になっていたのは葵のことだ。
葵は、告別式では、一番後ろの席で、怒ったようにうつむいて座っていた。
彼女とは、大学に入ってからの知り合いだが、出会いについては、よく覚えていない。
ただ、初めて2人で出かけたときにことははっきり覚えている。
メールで、初めて、彼女に「どこか遊びに行きたい」といわれたときはすごく焦った。
俺は、いつも、あそこは面白そうだとか、ああいう店は好きだ、嫌いだとか、いかにも何でも分かったようなことをしゃべってはいたが、実際は、ほとんど、どこにも行ったことがないのだ。
話していることは嘘ではないのだが、いろいろ考える割には、行動力がないのだ。
そもそも、いつも自分のことばかりで、女の子がどこに行ったら面白いか、楽しいか、なんていうことは考えたこともない。
それでも、しょうがないので、インターネットで、おしゃれな店やスポットを必死で探してみた。どこも、自分にはハードルが高かったり、いまいちピンとこなかったりで、どこにも決まらないのだ。
そのうち面倒くさくなって、デートの日が近づいてくるとどんどん憂鬱になってきた。
結局、去年、ひまつぶしに一人で出かけた海に行くこととした。
特に、海が好きだったわけでもないが、行き方も分かるし、当たり外れもなく、変に気を使わないと思ったのだ。
そのときは、我ながら、かなりいい案だと思った。
デート当日、近くの駅で待ち合わせて、2人で海を見に行った。
・・・11月の海は寒かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます