第4話 葵のこと(その1)

気になっていたのは葵のことだ。


 葵は、告別式では、一番後ろの席で、怒ったようにうつむいて座っていた。

 彼女とは、大学に入ってからの知り合いだが、出会いについては、よく覚えていない。


 ただ、初めて2人で出かけたときにことははっきり覚えている。


 メールで、初めて、彼女に「どこか遊びに行きたい」といわれたときはすごく焦った。

 俺は、いつも、あそこは面白そうだとか、ああいう店は好きだ、嫌いだとか、いかにも何でも分かったようなことをしゃべってはいたが、実際は、ほとんど、どこにも行ったことがないのだ。


 話していることは嘘ではないのだが、いろいろ考える割には、行動力がないのだ。


 そもそも、いつも自分のことばかりで、女の子がどこに行ったら面白いか、楽しいか、なんていうことは考えたこともない。

 それでも、しょうがないので、インターネットで、おしゃれな店やスポットを必死で探してみた。どこも、自分にはハードルが高かったり、いまいちピンとこなかったりで、どこにも決まらないのだ。

 そのうち面倒くさくなって、デートの日が近づいてくるとどんどん憂鬱になってきた。


 結局、去年、ひまつぶしに一人で出かけた海に行くこととした。


 特に、海が好きだったわけでもないが、行き方も分かるし、当たり外れもなく、変に気を使わないと思ったのだ。

 そのときは、我ながら、かなりいい案だと思った。

 デート当日、近くの駅で待ち合わせて、2人で海を見に行った。


 ・・・11月の海は寒かった。

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