第2話 俺のこと
事故に遭って、霊になり、しばらくして、自分の肉体がないことに気づいた。
そのときは、すごく絶望的な気分になったが、精神的には、なんだか、少しぼんやりした、変な感覚だ。地上にいた頃よりはゆったりした、楽な気分だ。そんなに悪くはない。
さっきまで地上にいたせいか、まだ、地上にいたころの記憶と意識もはっきりしている。もう少し記憶をたどってみる。
俺は、大学3年生。
都心部から少し離れた郊外の大学に通っていた。地方から出てきて、大学の近くの木造2階建てのアパートに一人暮らし。
大学の授業は、一応、ひまつぶしに出てはいたが、大体はパソコンとゲームをやって1日が終わる。
正直に言うと、ずっと心の中で引きずっていることがあった。
本当に行きたかった大学に行けなかったのだ。
この先の人生も、大したことはないのだろうとあきらめていた。そういうと、人生を達観したかのように聞こえるかもしれないが、本当は、人生あきらめきれず、悔しくてたまらず、魂が悶々と苦しんでいたのだ。
ただ、誰が聞いても同情してくれるような苦労話は人に話をする甲斐もあるが、希望した大学にいけなかったなんて話、掃いてすてるほどある。
人に話しても、「なに不自由なく暮らしていて感謝しなさい」とか、「大学にいけただけでもありがたいと思いなさい」とか、「これから必ずいいことあるよ」とか、それくらいの話にしかならない。
でも、俺に言わせれば、なに不自由なく暮らしていたって、魂が苦しむことはある。
たしか、外国で、福祉が整って、不自由のない国ほど、自殺が多いという話を聞いたことがある。本当かどうかは知らないが、俺は、本当だと思っている。
かといって、俺の場合、世の中に反発して、あるいは人の目を気にせずに、自分の生き方を貫くほどの信念も度胸もなく、死んだように、流されたように生きているだけだった。
今となってはどうでもいい話であるが、そんな俺が、事故に遭ったのは何かの運命だったのか。
それはそうと、霊になって、ひとつ分かった重大なことがある。
霊は暇なのだ。
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