「やあ」

「はじめまして」

「トムかな？　ピーターかな？」

「リアよ」

「そうか。俺はチェシャ。どこまで行くの？」

「次の岸よ」

「夜になる前にいちばん紅く染まる雲を目指して行くと、隣の島があるんだ」

「じゃあ、あっちね」

「これ動かせる？」

「もちろん」

「教えてくれる？」

「もちろん」

チェシャはボートを漕いだことがなかった。

オールで湖底を突いて進み、届かなくなった

ところで揺れていた。船底に、魚を掬う網と

皮の袋。袋の中からナイフのセット、琺瑯の

カップ。人は小さい頃に泳ぎと漕ぎ方を覚え

、夜の岸に遊ぶ。放仔する蟹。光る苔や茸の

胞子。夜毎、水面は淡い光に包まれていた。

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