意外とややこしい中国刀

 今回は私の苦手な中国武術系の話。中学の時に近所の本屋でなんとなく中国武術の本を買って読んだら「発勁」単語がいくつも出て、それを知ってる前提で解説されていて、思わず「そんなの知るかぁ!」っと本を投げてしまった事が有り、その時から中国武術には苦手意識を持ってます。


 その後も何度か資料を漁ったりして調べたのですが、創作と実用が複雑に絡み合って、「相当好きじゃないと調べきれないな。諦めよ」と何度も投げ出してしまいました。


 私はそんな感じですし、憶測混じりの話になります。ですから本格的に中国武術をやっている人から見れば「アレレ? それちょっと違うよ」と思う事も書いてしまってると思いますが、予めご了承ください。






 さて本題。ファンタジーと言えば西洋式の物が主流ですが、中華系のキャラクターやチラッと出てきたり、中華物のファンタジー作品も人気な物があります。


 今回はそんな中華物の作品でおなじみ、中国の刀の悩みです。特にアニメや映画に出てくる、幅広の刀身で、切っ先辺りがさらに幅が広がってる”アレ”の悩み。


 ”アレ”なんですけど、中華物の作品を書く時に呼び名で悩んだ人も多いのではないでしょうか?


 一般的には”青龍刀”と呼ばれてますけど、青龍刀と言うのは、関羽の持ってる薙刀状の物が青龍偃月刀と言い、”アレ”の事ではない。中国武術ではダオという、しかし刀では片刃の武器を指す言葉で範囲が広すぎる。ちょっと知識のある人はアレは”柳葉刀”と呼ぶのが正解と言う人が殆どでしょう。


 ・・・・ですが、厳密にいえば”柳葉刀と呼ぶのも違う”ようです。


 柳葉刀はアレの前のスタイルで、切っ先の幅が広がっている部分が無い、幅広のサーベルの様な刀身の刀の事を言い。幅が広がっている部分が有るタイプは”牛尾刀”と言うそうです。


 英語圏ではアレをオックス・テイル・ソードと呼び、ちゃんと分けられてますが、なぜこんな誤解が日本で広まってるんでしょう? 恐らくですが字ではなく口伝で日本に伝わった時に混乱が生じたのではないかと私は思います。


 柳葉刀(リューイェダオLiuyedao)と牛尾刀(ニュウウェイダオNiuweidao)、口で言われるとどっちなのか分かりにくい上に、使い方もほぼ一緒だったので、誰も違和感を感じなかったのかもしれません。


 ですが日本で牛尾刀を書いても先ず通じないでしょう。和製中国語と割り切って青龍刀と書くか。シンプルにダオと書くか。ちょっと背伸びして柳葉刀と書くか。イバラ道を覚悟して牛尾刀と書くか。・・・・呼び名だけで物凄く困ります、どうすればいいのでしょう・・・(と言うか牛尾刀って日本読みだと、どういうんだろ?)


 呼び名で迷うので、ここでは取りあえずアレと呼ぶことにします。アレですが「日本刀より刀身が厚く重い」とよく言われます。創作でもその様に書かれている事が多いですが・・・、ロングソードもそうでしたよね。ですが実際調べてみると意外に軽かったですし「これは中国刀も怪しいぞ」と思い調べてみました。


 まず中国語で検索・・・しても、悪い意味でのメイドインチャイナな物が大量に出てきて行くてを阻んできたので、英語圏の古物商のサイトを覗いて調べました。


 まず重さから。将校用のアレは600グラム代から700グラム代の物が多かったです(厳密には、また呼び名が違うのでしょうが柳葉刀の様なタイプです)。かなり軽いですね。カンフーでよく見るトリッキーな動きにも対応出来そうです。


 ですが簡素なアレの重量は800グラム代から1.2キロ程の物が多かったです(柳葉刀タイプと牛尾刀タイプの両方)。将校等の儀礼として持つ物は軽量で、実用の物だと800グラム以上の重さが有るのでしょう。


 日本のカンフーショップのサイトでステンレス製の物が売られていて、表記されていた刀の重量は1.5キロだったと記憶しています。少々重いですが片手剣としては常識的な重さに収まっていますので、本物のアレもこれくらいの重さの物が有りそうですが、見つかりませんでした。


 よって実際のアレは”日本刀よりも若干軽いか、同じくらいの重さ”の物が一般的だったと思われます。


 次は厚みですが、これが面白い造りになっていました。ある牛尾刀を例に挙げると

 

・刀身の長さ76.8cm、全長95cm


・刀身の厚さが、根元の一番厚い部分が8mm、中央2.5ミリ、切っ先1.5ミリ


・重量(鞘が無い状態)は1027グラム


 これは極端な例ですが殆どの物が、切先の厚みが根元の厚みの半分くらいしかないか、それ以下の厚みの物まであります。(根元が5.4mmでも切先2.4mmや、根元4.8mm切先2.9mmなど)


 これはしっかり斬る事を意識した造りで、もっとも斬撃の威力が出る物打ち部分を薄くして切れ味を出し、物打ちで打った際に負担がかかる、根元の部分を厚くして強度を確保する設計です。


 日本刀も西洋剣も根元かあ先端に向かって刀身の厚みが薄くなっていますが、例に挙げた牛尾刀の様に、ここまで極端な造りの物は恐らくないでしょう。


 余談ですが、牛尾刀は19世紀ごろに生まれた刀なんだそうです。さらに一般人用の武器で、軍では正式採用されていなかたっとか。つまり19世紀以前の中国の武闘家がアレを持っていたり、鎧をガチガチに着込んだ軍人がアレを持ってたりするとちょっとおかしな事になるとか。地味に面倒くさいですよね。


 でも例の如く現実がどうであれ気にする事は無いと思います。酔っぱらいながら戦う酔拳や、木の人形に殴られる木人拳の様なインチキカンフー映画なんて沢山ありますし(小学生の頃、酔拳2が好きでよくビデオを見てました)。


 歴史的に考えると三国志の関羽は青竜偃月刀なんて持ってないですし、張飛は蛇矛を使わず、呂布だって方天画戟は持ってないでしょう、これらは三国志の時代よりも後の武器ですから。


 そう考えれば気にしたら負けでしょう。創作において中国は何でもありな状態で使われる事が多く、「ミステリーで中国人を出しちゃいかん」と言った、昔の作家さんが居たぐらいです。もう気にせずやるしかないかなと。(真面目に中華作品を書こうと思ってる方が居たら、ごめんなさい) 逆にその辺りの設定をしっかりできれば、その手の人が喜ぶ良い作品が書けると思いますが・・・。私程度のレベルでは無理かなと思ってます。


 アナタはアレをどう書きますか?

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