第38話:テレビ生放送の裏側

青葉視点



 午後からもエキストラとして精一杯活躍した。後輩プレイヤーの紗丹さたんにすら名前を憶えられてないんだから、俺を指名してくれるお客様アクトレスなんぞいない。

 はぁ……、何か飛び出すキッカケさえあればいいんだが。

 

『コード8814、コード8814。待機中のプレイヤー及び店付き受付嬢アクトレスは速やかにスペックス玄関前に集合。可能ならば普段着に着替え、野次馬に紛れるような服装で来る事、以上』


 この声は紗雪さゆきちゃん? 紗雪ちゃんが緊急館内放送を行っている。

 このコード8814ヤバイヨはめったに出される事のないコード、そして玄関前と言えば現在紗丹がテレビの取材を受けているはず……、これはチャンスじゃないか!?

 上手い具合に俺は普段着っぽい衣装だし、エキストラとして必要だったギターも手元にある。

 生放送でしかも全国放送、目立つチャンス!!


 急いで外に出ると、紗丹があのエミルちゃんに抱き着かれている!?

 何だこの状況は……、そう言えばエミルちゃんの演技の稽古相手に選ばれたんだったな、あいつ。

 って事は公開生放送でプレイ中って事だな? 瑠璃るりさんもなかなか思い切った事をなさる。

 良く見ると野次馬の先頭にいるのはうちの所属プレイヤーばかりだ。これはいい、俺がより目立つ為に手伝ってもらおう!

 野次馬扮するプレイヤーや店付きアクトレス達に、肩を組んで誰でも知っている歌を俺の合図で歌うよう伝える。

 早口だった為か、みんなが「はぁ?」みたいな顔をしていたが、俺がギターを鳴らし始めたら意図が伝わるだろう。


「久しぶりやな夏希!! 元気してたか? 会って話したい事一杯あったけど、とりあえずコレ飲んで落ち着こ。な?」


 お、やっとセリフが始まったか! 紗丹がエミルちゃんにポカルを手渡す。


「うん……、うん!」


 涙目で笑い、ポカルを手に取り口にするエミルちゃん。ここだっ!! せ~の!!!!!




「「「「「君と手を繋ぎ話して 形のないモノ温めて いつの日も君の隣で 笑顔見てたくて おはようとか Yeah! おやすみだけじゃまだまだ 物足りない だから伝えるよ 君が大好きです」」」」」



 どうだ、プレイ内容分からんかったがこの歌なら大抵のシチュエーションに対応出来るだろう!

 テレビの生放送で俺の歌が流れている、気持ちイイ……、もっと歌っていたい……! もう誰にも止められない!! 2番行くぜっ!!!


「CM入りました~」


 あ、終わった。



牡丹ぼたん視点


 こちらへ走って向かって来る女性が結城ゆうきエミルさんだと気付いた時、やはり不測の事態は起こり得るものなのだと思い知った。

 瑠璃ちゃんはいらないと言っていたけれど、やっぱり事前にお願いをしておいて良かったと思う。

 エミルさんが優希ゆうきさんに抱き着いた直後、電話が掛かって来た。


『牡丹様、こちらにはスポンサーの担当者が揃っております。このままプレイだと思われるような流れに持って行く事は可能ですか?』


「紗雪ちゃん、コード8814」


「了解、緊急館内放送をかけます」


『どうにか乗り切って下さい。こちらはこちらで根回ししておきます』


「ありがとう、芹屋せりやさん。事態が終息したらまたご連絡致します」


『礼など不要です。これが宮坂家みやさかけメイド長としての勤めですから』


 通話を切って紗雪ちゃんを見る。優希さん……、紗丹君に口パクで再会プレイをするよう伝えている。これで伝わればいいのだけれど……。


「久しぶりやな夏希!! 元気してたか? 会って話したい事一杯あったけど、とりあえずコレ飲んで落ち着こ。な?」


 再会に相応しいセリフ、上手く伝わった! 紗丹君がエミルさんにポカルを手渡す。


「うん……、うん!」


 涙目で笑い、ポカルを手に取り口にするエミルさん。

 良かった、でもエミルさんは演技ではない。どうにかして場を仕切り直さないと。

 スタジオにいる芹屋さんが責任者に掛け合ってくれればCMなり何なりで時間を置けるのだけれど……。



「「「「「君と手を繋ぎ話して 形のないモノ温めて いつの日も君の隣で 笑顔見てたくて おはようとか Yeah! おやすみだけじゃまだまだ 物足りない だから伝えるよ 君が大好きです」」」」」



 え、何これ!?

 紗雪ちゃんも呆然とした顔で肩を組む野次馬風プレイヤー達を見つめている。その輪の内側にいるのは、見つめ合う紗丹君とエミルさん、そしてギターを鳴らしながら2人の周りで飛び跳ねている青葉君。

 あなた何があったの!? 大丈夫かしら……、頭。


「プレイヤー独断でのアドリブみたいですが……、結果オーライでしょうか?」


 さぁ、どうでしょう。全ては瑠璃ちゃんがどう判断するか、そして視聴者にどう映っているのか……。

 瑠璃ちゃんはと言うと、さっきからずっとアワアワしたり服を握りしめて2人を見つめたり、忙しそうね。この子は不測の事態に弱いから、まぁ仕方ないか。


「CM入りました~」


 すかさずエミルさんを確保しに行く。余計な事を言わせるわけにはいかない。


「エミルさん、初めまして。私はスペックスの者です。あなたの行いは全てテレビで放送されてしまいました。事態を穏便に済ます為、現在対応中です。これ以上テレビに映られると、あなたとあなたの事務所が大変な事になります。とりあえずオフィスの方へ来て頂けますか?」


 エミルさんにそう話すと、見る見るうちに顔面が蒼白になって行った。

 自分がした事がやっと分かったのでしょう。


「でも、その、優希は……?」


「まだ生放送が続くかも知れません。紗丹君にはここに残ってもらい、当初の予定通り取材を受けてもらいます。お2人の再会を祝うのはその後、それでいいですね?」


 エミルさんが優希さんを見つめる。2人の間に何があったのかは分からない。でもそれは後でゆっくりと話せばいい。ゆっくりと話す事を彼女の事務所が許せば、だけれど。



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