第36話:テレビ生出演当日の午前中
翌朝、
さわさわと起き抜けに柔らかい感触を楽しみつつ、着替えさせてもらう。俺もすっかりこの状況に慣れきってしまった。もうちょっとだけ紗雪を楽しもう。
「旦那様、お戯れが過ぎます。奥様がお待ちですので」
「紗雪が可愛いのがいけない」
「あっ……」
ダイニングへ向かうと、今日は珍しく
「アナタのテレビ初出演ですもの、私も出来る事をしなくっちゃ」との事。甲斐甲斐しい妻だ。
でも初と言うのはどういう意味かな? まるで次があるような言い方だが。フラグにならない事を祈ろう。
ちなみに
紗雪が出来上がったサラダや食器などの配膳を手伝っており、手持ち無沙汰な牡丹が気まぐれにテレビをつける。
「あ、エミルさんの出てるCMやってますよ。昨日まで海外で撮影されていたのはこの次のバージョンらしいですね」
へぇ~、
「長い髪の毛を振り回してダンスしてるわね。様になってるわ」
へぇ~、髪の毛が長いのか。
「とても可愛らしいお顔ですね、どこか
へぇ~、どこか俺に似ているのか。それって可愛い顔なのか?
「旦那様、ご無理なさらずお顔を見られてはどうでしょうか?」
「たまたま知らなかったにしても、あと1日で初対面ってとこまで来たんだ。どうせならこのまま見ずに会うよ」
別にこだわっているわけではないが、どうせならとついつい思ってしまう。
「まぁまぁ、そんな事より今日のテレビの撮影ですよ。生ですからね、オーナーの瑠璃ちゃんと要チェックプレイヤーの
らしくなく牡丹がはしゃいでいる。こういうところは結構ミーハーなんだんだろうか?
まぁ超がつく金持ちだからって、テレビの撮影現場に慣れた一般人はそうそういないだろうしな。
「学生時分を思い出すわ。いつもイベント事があるたびにお父さんがテレビクルーを雇ってドキュメント仕立てにしてもらったり。ナレーションまでプロにお願いする徹底ぶり、まだ家にVTRあるのかしら」
「もちろんあるでしょう、シアタールームに保管してあるはずですよ。私達3人分でDVDが千枚を超えたって言ってましたもの」
さすがはこの三姉妹の父親、と言ったところか。そもそも一般人のカテゴリーに入ってなかった。
「さゆの制服姿か、見たいな~。あの
紗雪にだけ聞こえるように呟くと、真っ赤な顔をしてコクコク頷くだけのマシーンになってしまった。
生放送が行われるのは午後2時半頃と言う事で、午前中はいつも通りプレイヤー業だ。
午後からオフに指定していて、早めに撮影クルーとの打ち合わせが行われる予定だ。午前の予約は2件のみ。最近では結構自ら楽しんでプレイしている。
塞ぎ込んでいた頃の自分が聞いたら驚くだろう。笑顔すら忘れていたんだから。
「聖女様、いけません。異性と通じてしまうとあなたの聖なる力がなくなってしまいます! どうかこの世界を救う為、耐えて頂きたい……!」
「ですが勇者様! 私は魔王との戦いで力果てて消えてしまうかも知れぬ身……、どうかその前に、あなたとの思い出が欲しいのです!!」
「そのお気持ち、しかと受け止めました! 思い出など、魔王を倒した後の世界でいくらでも作りましょう。あなたが生きて帰る為に私がここにいるのです。何に代えてもあなたをお守り致します!!」
「あぁ、勇者様……、私は世界一の幸せ者です……」
抱き合う2人。その後の戦いでエキストラプレイヤー演じる魔王と相討ちとなってしまう勇者。1人残される聖女役アクトレス。
「あぁ……、勇者様の嘘つき! 私を残して逝くなど、許しませんわ!!」
「聖女様……、私は嘘などついておりません……。何に代えても……、あなたを、お守りすると誓った……。そう、この命に代えても……、ぐふっ、バタン」
「勇者様ぁぁぁ!!!」
どうしてこうも女性は悲恋系の物語が大好物なのか。
ハッピーエンドではお断り出来ないにしても、多くのアクトレスからのリクエストは歪んでいるとしか思えない内容が多い。まぁ歪んでいるからこそお断り屋に来て、行き場のない願望を吐き出しているんだろうが。
聖女様が鼻水まで垂らして号泣しているのを薄目を開けて見る死んだ勇者役の俺。
その隣には口から血のりを吐いて倒れている魔王役のエキストラプレイヤー。あ、あの人も薄目で見てるわ。
いつプレイが終わってクーリングタイムに入るかはアクトレス次第だからな、俺ら死んでるから止めようがない。かれこれ10分くらい号泣してるけど、もういいですか?
そして2件目のプレイ。
「この私のものとなれ、勇者よ!」 「断る事を断る!!」
これアカンやつやぁ~!!
こうして2件の予約をこなし、いよいよ撮影クルーとの打ち合わせが間近に迫って来た。
「あの聖女様結構長い事泣いてたよな?」
「ええ、そうですね青田さん」
「……、俺の名前、青葉だからな?」
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